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建滴 法令順守の先に 元下調査で要指導が98%

2011/11/28 東京版 掲載記事より

建設業界で企業の経営理念や団体の活動方針に掲げられている「法令順守」。その狙いはもっぱら不正行為の防止にあるようだが、もっと基本的な部分で改善に取り組むべき問題がある。
 国土交通省が今月発表した2011年度の「下請取引等実態調査」の結果によると、元請け・下請けを問わず下請け工事を発注したことのある業者の98・1%で建設業法に基づく指導が必要とされた。状況は前年度の調査結果とほぼ変わらず、元下間の契約をめぐる法令順守の意識の低さがあらためて浮き彫りとなった。
 具体的には、見積もり依頼で「契約書に記載すべき事項を全て提示」していない業者が89・6%に上り、「下請け契約の内容や提出日が明確な書面」を用いていない業者も53・8%と半数を超えている。追加・変更契約が不適正な業者は63・9%。知事許可業者の10%超はいまだ契約を「口頭」で取り交わしていた。
 元請けからのしわ寄せは、下請けの9・4%が「ある」あるいは「知っている」と回答。中身として▽追加変更契約の締結の拒否▽下請け代金の支払い留保▽やり直し工事の強制―などが並ぶ。
 一方で元請けの7・3%も、発注者(施主)から「設計図書の不備・不明確、設計積算ミス」や「追加・変更契約の締結の拒否」といったしわ寄せを受けたと回答している。
 建設業の経営環境が厳しさを増す中、工事の品質を維持するためには元下間の協力体制が不可欠。それだけに業界は、契約面の法令順守を通じて早急に現状を改善しなければならない。大本である発注者とりわけ公共発注機関の法令順守は当然だ。
 ただ、形式的な法令順守はかえってマイナスに働く恐れもある。
 例えば、今回の調査項目のうち下請け金額の決め方を見ると、業法に基づき下請けから「見積書を提出」させて、元下双方の「協議の上決定」している業者は71・2%に達している。
 それでも専門工事業者がいまだ「指し値の横行」を主張し続けているのはなぜか。協議という形式にのっとりながら、実態はコストダウンを強要しているとの疑念を抱かずにはいられない。
 また工事ではないが、東京都の都営住宅の基本設計をめぐる1円見積もりも形式優先が生んだ問題だろう。発注者は最低価格を採用する制度の厳格運用を続け、見積もり参加者も競り勝つために制度に基づいて価格を下げ続けたことが異常事態を招いている。
 制度上は問題なくとも社会通念上は認め難いだけに、結局は受発注者双方が批判を浴びて、規制強化とそれに伴う受注機会の減少に帰着することになりかねない。
 基本的かつ本質的な問題を改善するための不断の努力を積み重ねた先にこそ、建設産業の未来は見えてくる。