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建滴 建設技能者不足 待ったなしの就労改善

2012/1/23 東京版 掲載記事より

東日本大震災の復旧・復興の現場で、建設技術者・技能者不足が深刻化している。これに伴う労務単価の上昇に、資材の高騰も重なり、入札の不調が増加している。国土交通省によると、宮城県が10月から11月にかけて発注した工事では、小規模案件を中心に約4割が不調だった。
 今後、第3次補正で予算計上された復旧・復興工事が本格化する。しかし、こういった状態が続けば、復興の進ちょくそのものに支障が出かねない。国交省は対策を検討するため、国と被災自治体、建設業団体で構成する「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」を設置した。12月の初会合で自治体側は、技術者の専任を必要とする工事の要件緩和や、実勢価格を即時に反映できる労務費調査制度の導入を求めた。また、建設業団体は、被災地と被災地以外の建設業者による「復興JV」を提案した。適切な制度を早急に整備し、スムーズに復旧・復興事業を推進しなければならない。
 震災復興という当面の課題に対応するとともに、技術者・技能者不足の問題には、中・長期的に対策を講じていく必要がある。
 技能者不足は、熟練者が高齢化で引退する一方、若年入職者が減少する傾向の中で、これまでも懸念されていたことだ。大震災の復興需要が、問題を一気に顕在化させた。
 日本列島は地震の多発期に入ったといわれている。国を守っていく上でも、建設業への入職者の確保と人材育成は喫緊の課題だ。技能者の低賃金の解消など、入職者の拡大策を推進する必要がある。
 日本建設大工工事業協会が会員企業を対象に11年秋に行った型枠大工の雇用実態調査では、技能工の減少や高齢化とともに低賃金の実態が明らかになった。
 交通費や道具などの必要経費を差し引いた型枠大工の平均年収は、職長レベルで275万円、技能工で233万円だった。同調査報告書は「これでは若く有能な技能労働者が育成されるわけがない。現在の建設業界は、いまある技能資産を食いつぶしながら、『技能・技術伝承の途絶』という断崖絶壁に向かって走っているランナーのようだ」と指摘する。
 国交省は、建設業の技術・技能の担い手を確保するため、就業者の年金や医療などの社会保険未加入対策を今後強化する。だが、保険加入を促進するためには、必要な費用を負担できる条件を整えることも不可欠だ。
 技能者の低賃金の一方で、公共工事の入札で、予定価格に対する落札金額の割合が80%程度という過当競争が常態化している発注機関も少なくない。重層下請け構造の中で、現場の労働者は低価格受注のしわ寄せを受け続けてきた。「予定価格の上限拘束」の見直しなど、入札制度の抜本的な改善も、問題解決には必要だ。
 あらゆる関係者が知恵をしぼり、現場の就労という根底の部分から建設産業を再構築していかなければならない。