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建滴 不動産業界と「日本型民泊」

2016/5/30 

厚生労働省と観光庁は、旅行者らに一般住宅を有料で貸し出す「民泊」の全面解禁に向けて検討を進めている。規制改革実施計画に基づいて設置された「民泊サービスのあり方に関する検討会」で議論を重ねてきた結果、住居専用地域など、ホテルや旅館の営業ができない地域でも、賃貸不動産などを所有する貸主がネット上で手続きをすれば、旅館業法上の「簡易宿所」の許可を得なくとも部屋を貸し出せるようになるというものだ。政府の規制改革会議は5月19日の答申で、既存の旅館業法とは別の新しい法的枠組の制定を提言している。
 「空き家の活用・再生」という課題を抱える中で、不動産投資市場の多様化や新たなビジネス機会の創出につなげたい不動産業界は、この大幅な規制緩和をおおむね好意的に受け止めている。
 ただ、不動産のプレーヤーの中には大幅な解禁に異議を唱える企業も少なからず存在する。これまでに民泊がもたらした「功罪」を検証した上で、解禁の流れとは真逆の「営業許可」を厳格に審査する必要性を強調する。
 従業員が24時間常駐するホテルと違い、警備・管理体制を心配する声も聞かれる。それだけに、宿泊者の安全を守るため消防法令への適合など、最低限の要件を設けるべきとの指摘もある。不動産管理に関する知識や経験など、「業」として一定水準以上のノウハウがなければ適切な運用は困難というのが、その理由だ。
 警鐘を鳴らす声は、不動産業界の外からも聞こえてくる。「あり方に関する検討会」を通じて、旅館・ホテル業界の団体が、既存のホテルなどと異なる取り扱いとするために民泊施設の営業日数や宿泊人数に上限を設けるべきと主張している。
 民泊が浸透している欧米諸国の例を見ても、英国では年90泊以内、オランダのアムステルダムでは年60泊以内というように営業日数を制限している。ある不動産管理会社の幹部は、仮に年間営業の日数上限が90泊(180日)に設定された場合、「月間平均稼働率は30%程度にとどまり、利益を出すのは不可能。ビジネスとして全く成立しない」と断言する。
 政府は、20年の訪日外国人旅行者数として新たに4000万人の目標を掲げ、その受け皿づくりの一つとして、民泊ルールの整備に取り組んできた。全面解禁にはリスクが伴うものの、海外の事例を参考にして日数制限を加えることは、せっかく日本で育みつつある民泊の芽を摘んでしまうことになりかねない。今後も慎重な議論が必要だろう。
 不動産業界は、少なからず現業の圧迫を懸念するホテル・旅館業界に対して、▽公衆衛生面での対策▽マンションでの運用ルール▽新築物件の転用禁止策―などの規定を提案するべきだ。マッチングサイトや新規派生ビジネス、委託関連ビジネスに対しても「何が合法で何が違法なのか」を明確に示す必要がある。
 結果的に、今回の解禁が秩序のない「野放し」の状況を引き起こしてしまったら、取り返しがつかない。適切に運用され、ビジネスとして成り立つ「日本型民泊」のルールづくりに、不動産業界は一刻も早く取り組まなければならない。