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五輪、レガシーの実現を忘れるな

2016/8/8 

2代続けて「政治とカネ」を巡る不祥事で辞任するという異常事態にあった東京都の新知事に、小池百合子氏が就任した。東京都初の女性知事に都政への信頼の回復が託された。
 小池知事は都政運営の理念として、「安心安全なセーフシティー」「全ての都民が活躍できるダイバーシティー」「将来の成長戦略にもつながるスマートシティー」―の三つのシティの実現を掲げてみせた。「直下型地震への備え」「一極集中の解消」「少子高齢化対策」など、難問だらけの都政にどのように向き合っていくのか。その行政手腕が問われている。
 中でも喫緊の課題は、施設整備費を含む東京オリンピック・パラリンピックの費用負担の在り方だろう。当初、仮設の競技施設の建設費は大会の組織委員会がスポンサー収入など民間資金を充てる予定だった。しかし、整備費の増大に伴い、都が一部負担する方向で調整が図られている。
 小池知事は、費用の算出に当たっての積算根拠や予算の妥当性などを調査するための組織を設置する考えも示している。当初約7000億円と言われた全体経費が2兆円以上に膨らむとの見通しが示されている以上、精査は避けて通れない。
 ただ、その検証が予算圧縮・事業削減のみを推し進めるためのものであってはならないし、20年競技大会の遺産(レガシー)を東京、ひいてはわが国に残し、継承するという「オリンピック・レガシー」の実現を忘れてはならない。すでに、産官学の協働によるレガシー創造に向けた検討・提言がなされている。小池知事には、五輪関連施設の整備や、まちづくりの担い手である建設業界の声にもしっかりと耳を傾けてもらいたい。
 建設資材の高騰や労働力不足という建設業が抱える問題は、今後数年で劇的に解消されるわけではない。費用を抑制するためには競技施設やインフラの質を下げてもよいのでは―などという意見もあるようだが、こうした考えはあまりにも乱暴だ。
 施設のグランドデザインは、ほぼ固まっている。仮に、その規模や機能を大幅にダウンサイジングさせるとなると、建設産業にとって大きな痛手となるばかりか、「レガシーの創出」という、20年競技大会の目的を見失うことにもなりかねない。小池知事には、五輪を取り巻く状況の変化を絶えず把握し、財源確保と経費節減をマネジメントする役割が求められている。
 東京一極集中の是正、高齢化社会への環境適応という、避けては通れない課題もある。
 2025年にはベビーブーム時に生まれた「団塊の世代」が75歳以上に達する、いわゆる2025年問題にも直面することになる。社会保障費の増大が、近い将来、都の財政運営を難しくするであろうことは容易に想像できる。
 東京の人口に占める高齢化率は急速に高まっている。高齢化の進展に伴って発生する多くの課題の解決の糸口をつかむためにも20年大会のレガシーを具現化する必要がある。いずれにせよ、北欧1国にも匹敵するほどの財政規模を持つ東京が、わが国の将来を左右する立ち位置にいることだけは間違いない。