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建滴 社保未加入対策と高齢者活用

2016/8/22 

社会保険未加入対策が高齢者の建設業離れを招く―。建設業の技能労働者330万人のうち、55歳以上は112万人で、実に3分の1を高齢層が占めている。高齢化がこれだけ進む中、建設業に担い手を呼び込むために始まった社会保険未加入対策が、貴重な担い手である高齢者を離職や退職に追いやるのではないかという懸念は以前から根強い。ただ、ここに来て、未加入の高齢者に配慮する二つの施策が立て続けに打ち出された。
 厚生年金保険は保険料を最低25年納付しなければ、受給資格を得ることができない。厚生年金に新たに加入しても、受給資格を満たさずに退職する可能性が高い高齢者が、建設業から他業種に職を求めるのでは、との懸念がある。
 政府はもともと、消費税を10%に引き上げるタイミングで、受給資格を満たす保険料の納付期間を10年に短縮する方針を示していたが、消費増税が19年10月に再延期されたために財源が失われ、納付期間短縮の時期が不透明になっていた。
 ただ、参院選後の会見で安倍晋三首相は、増税を待たず、2017年度をめどに資格期間を短縮すると表明。これで、加入期間が不足して年金の受給資格を得られなかった多くの技能労働者が資格を得られるようになることから、加入をためらう技能労働者を後押しすることにもつながるとの期待がある。
 建設現場での加入指導についても、高齢者の活用に配慮する方針が示された。
 元請けが加入指導を行う際の指針となる『社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン』では、17年度以降も未加入の作業員について「元請け企業は特段の理由≠ェない限り現場入場を認めない取り扱いをすべき」とされている。
 国土交通省は7月28日、この特段の理由≠フ解釈を明らかにする通知を建設業団体や地方自治体に送った。この中で「現場入場時点で60歳以上であり、厚生年金保険に未加入の場合(雇用保険に未加入の場合はこれに該当しない)」は、60歳以上の未加入の高齢者を17年度以降も現場に入場させる特例措置を講じる考えを示した。
 国交省は、10年後の技能労働者数が44万人減少し、286万人になると推計している。現在60代後半の団塊世代をはじめ、高齢層の大量退職は避けようのない現実として突きつけられている。
 今回の解釈≠ヘ、あくまでも特例であり、元請けが引き続き加入指導を行うべきとの姿勢は堅持しているが、厚生年金に新たに加入しても、受給資格を得ることが難しい高齢者の活用に一筋の光明を与えるものであることは確かだ。
 企業単位で建設業許可業者の加入率100%、労働者単位で製造業相当の加入率を目指す社会保険未加入対策は、17年度に目標の期限を迎える。
 これまで建設産業を支えてきた世代は、高齢化が進む今も建設産業の担い手であり続けている。目標の達成を急ぐ余り、技能労働者の処遇改善や担い手確保を目的に進めているはずの未加入対策が、技能継承の機会を奪うものとなってはならない。現場の一線で活躍する高齢者と、その雇用者側にも配慮する、施策の柔軟な運用を歓迎したい。