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異次元の冬将軍に備えたい 除雪体制の危機

2016/10/3 

冬の到来を前に、業務委託説明会の開催など、道路除雪への備えが各地で始まっている。しかし、これまで地域建設業が支えてきた除雪体制は危機的な状況に置かれている。全国建設業協会(全建)が行ったアンケート調査によると、多くの会員企業が現行の体制の維持が困難だと訴えた。採算性の低さなどを理由に、6年後も体制を維持できると答えた企業は全体の3割に過ぎない。除雪費用の確保や、人口減少と高齢化が著しい地方の支援体制の在り方など、検討すべき課題が山積している。
 降雪量の多寡にかかわらず、冬場に地域の建設業が果たす役割は極めて大きい。通学・通勤や医療・消防などのルートを確保するために、多くの建設業者が使命感を持って業務に当たっている。
 しかし、地元住民からの期待も高い業務の体制維持が難しいのはなぜか。一番に挙げられるのは、稼働時や待機時などに要する経費の不足だ。これまでも業務の代価は十分ではないといわれてきたが、特に巡回パトロール、機械にかかる費用などの不足が全建のアンケートで明らかになった。
 また、降雪量や稼働期間とは関係なしに発生するオペレーターなどの人件費が各企業に重くのし掛かる。除雪機械のメンテナンスにかかるコストもばかにならない。ある建設業協会が以前行った調査では、自社保有機械の3割が20年以上前に初年度登録されたもので、しかも「更新も買い替えもできない」状況の企業が多いことが明らかになっている。
 こうした状況に加え、近年の少雪傾向が除雪業務の採算性の低下を招いている。全建のアンケート調査によると、道府県と市町村の発注業務では「利益なし」が4割近くに達し、市町村に至っては2割弱が「赤字」だという。
 何より、多くの企業が頭を抱えているのが人員の確保だ。建設業の本業と同様に、高齢化や後継者の経験不足といった課題も指摘されている。
 人員確保の難しさは、現場作業の過酷さも影響していると言えるだろう。ある県では、作業に嫌気が差したオペレーターが除雪機械を放置したまま、職場を放棄するという事態が起きた。また、自宅前の除雪を後回しにされたと思った住民からスコップを投げつけられるケースも発生している。「苦情処理を業者任せにするのはやめてほしい」「せめて自宅前ぐらいは自分で除雪してほしい」との声が上がるのもうなずける。
 これ以上、除雪体制を弱体化させないためには、発注機関による財源確保が不可欠。また、除雪による多くの受益者に業務の意義を広く理解してもらうことも重要ではないか。そうした努力が作業に従事する人々に誇りを持ち続けてもらうことにもつながるはずだ。
 地球規模の気候変動によって、これまでとは異なる次元の自然災害が多発している。ある企業は「除雪は一種の災害活動だ」とアンケートで指摘した。発注機関と建設業界、そして地域社会は、これまでとは異なる次元の”冬将軍との戦い”に備え、地域事情に即した減災のためのより良い体制を再構築しなければならない。