地域の建設産業の担い手を育成する工業高校。公立の全日制工業高校で建設分野を学ぶ高校生は岐阜県内では約1100人いる。女子は約160人。毎年、約370人が巣立ち、その内の約250人が就職している。卒業生の全てが建設系の仕事に就くわけではないが、工業高校が地域の建設業を次の世代につなぐための貴重な教育機関であることに変わりはない。岐阜県高等学校教育研究会工業部会の建設系分科会代表の大垣工業高等学校の増田俊彦校長に担い手を育む工業高校の現状や悩み、課題などを聞いた。
大垣工業高等学校 増田俊彦 校長に聞く
(岐阜県高等学校教育研究会 工業部会 建設系分科会代表)
――岐阜県高等学校教育研究会工業部会建設系分科会について。
「高校教諭の教育の研究会として、岐阜県高等学校教育研究会がある。ここには各教科の部会だけでなく進路指導、生徒指導など校務分掌の部会もある。その中の工業部会にわれわれが所属している。工業部会は系統別に機械系、電気・通信系、建設系、地域産業系と4分科会があり、さらに建設系分科会は建築系と土木系に分かれて活動している。わたしは土木系の担当校長をすると同時に建設系分科会全体の担当校長もしている」
「分科会はさまざまな活動をしており、建設業協会とは懇談会を設けている。懇談会の後には現場見学会を行った。そこでは企業の取り組みと、学校に対してどんな生徒を育ててほしいかなどの意見を聞いている。その他、企業と行ったものとして力量アップ研修がある。昨年は中日本高速道路の道路管理センターやスマートインターチェンジの工事現場を見学した。本年度は、小牧にあるコマツIoTセンタ中部で研修する予定でいる。最先端技術を高校生にどう教えるかについての研さんを積む」
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――岐阜県内の工業高校で建設を学ぶ生徒数について。
「県内には8校の公立の全日制工業高校がある。学科別には、機械系は19クラス(工業系学科内比率42.2%)。電気系が11クラス(同24.4%)。建設系が9クラス(同20%)。地域産業系が6クラス(同13.3%)となる」
「ここの集計以外、総合学科がある学校の環境テクノロジー系列にも建設系の生徒がいるが、ざっくりと工業高校の生徒の5人に1人が建設系を学んでいる。生徒数は3学年で1091人。そのうち女子が163人だ」
――卒業後の進路について。
「就職と進学の割合(2015年度)は、建築系が就職59.9%、進学38.9%、土木系が就職77.1%、進学22.9%。建築系が、進学比率が高い傾向にある。工業高校の中でも建築系は進学人数が多い学科だ」
「就職先を県内、県外で見ると、工業高校全体では県内就職が66.5%。県外が33.5%。建設系では、建築系の県内就職が81.2%、県外が18.8%。土木系の県内が65.6%、県外が34.4%となる」
「建築系の地元就職率が高い。これは地元の建設会社に就職することが多いため。土木系の場合は就職する会社が大きなゼネコンの場合もあるので、就職先として”県外”となることがある」
「進路の傾向は、近年はほぼ変わっていない。リーマンショック以降、経済が立ち直るにつれ、就職率が上がってきている。いまは求人が好調な状況だけに、就職したいのに状況の好転を待ってあえて進学する生徒はいない。就職したい生徒が就職し、進学したい生徒が進学する状況にある」
――生徒はどこに着目して就職先を選ぶのか。
「第一に企業名、規模、従業員数などブランド力。2番目は所在地。3番目は仕事の内容。4番目は研修の仕組みなど教育制度の有無。その後に、初任給や福利厚生など労働条件。最後はクチコミなど求人票以外の情報となる」
――卒業生との交流について。
「岐阜県建設業協会が取り組む”OBサポーター事業”などで学校を訪問してくれる。その時に就職先企業の様子を聞くことができる。OBサポーターには生徒の前で直接話をしてもらうキャリア教育もしてもらっている」
「OBサポーターに限らず、卒業生にはどんどん学校を訪ねてきてほしいと思っている。良い傾向として、近年は母校に愛着を持つ生徒が増えてきたのか、学校を訪ねてくれる卒業生が増えてきた。何かあると母校に相談しに来る環境は整いつつあると思う。ただし、卒業後3年ぐらい過ぎるとあまり来なくなる。これは本人の責任感の自覚や相談できる同僚の存在などがある。いい意味で学校を巣立ってくれる」
「高卒で就職した若者の3年以内離職率は全体では4割弱。工業高校の場合は全体平均より低いと聞いている。地域企業と学校の密接で良好な関係があるためと考える」
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――高校生のコミュニケーション能力は。
「工業高校に限らず、コミュニケーション能力の育成は非常に重要。学校も真剣に考え取り組んでいる。四半世紀前に比べていまの生徒の気質として、失敗を怖がる割合が増えているように感じる。そういった状況では、生徒たちに成功体験を積ませることが必要。その中で自信が生まれる。自信と活力を学校教育の中で与えたい」
「いまの高校生は自分の中に強力な推進力のエンジンを持つ子が少なくなった。一見するとひ弱なように感じるかもしれないが、問題行動を起こす生徒は圧倒的に減った。優しい子が多い。人前で話すことも上手になっている。ルールも守る。手順良く教えれば、しっかりと習得する。レベルの高い生徒が多い」
――工業高校(先生)の悩み。
「一つ目は十分な人材を供給しきれていないこと。これは建設分野に限らない。工業科全体で16年度は求人倍率が8.13倍あった。普通科を含めた県内の高校生の平均求人倍率は約2倍。工業科では求人8人に対して1人しか送れていないのが現状。われわれとしては企業が求める人材をなんとか供給していきたいと思っているが、それができていない。企業からすると”獲得できない”といった不満につながっているのではないか。それが大きな悩み」
「二つ目は生徒の気質がだいぶ変わってきたこと。少子化の影響もあり、少ない兄弟で育っているというケースが多い。昔のように先輩の仕事を見て盗めというような教育ではなかなか通用しない。学校も企業も丁寧な指導が必要になってきている。企業努力を感じる例として、就職が決まった生徒を社長が家庭訪問して親子に対して仕事の説明をする。逆に会社に親子を呼んで、社内を見せて説明をするといったことを聞いてびっくりした。ずいぶん丁寧になってきたと感じている」
「三つ目は、女子の育成。年々、企業から女子を育ててほしいという話が増えてきている。”建設小町”など建設業界のパンフレットも女子を登場させてアピールをしている。工業高校としても女子を上手に育てて、送り出したいと思っている。それと同時に現場もまだまだ女性の働く環境が十分に整っていないところもあるので、快適トイレや女性専用施設などの整備が進めばありがたい」
「これまでの3点とは違うが、工業系教員独特の悩みもある。他の教科と少し違うことは、工業科の1学科は助手を含めても7〜8人で構成しているが、同じ系統の職員が同地区にほとんどいないことだ。地域産業の状況なども情報交換をして教育にあたることは非常に重要であり、工業高校同士の交流を大切にしている。また、授業の現場ではなるべく最新鋭の知見を取り入れながら教育を行っている。特に工業科目は日進月歩。どんどん教える内容が進化している。教員も勉強していかないと最新鋭の状況についていけなくなる」
――企業へ何か要望があれば。
「新卒就職後、一定期間は社命でときどき母校を訪問させてほしい。在校生だけでなくわれわれ教員も卒業生から学ぶことができる」
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