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不良不適格業者の排除へ

不良不適格業者の排除へ

蟹澤宏剛芝浦工業大学教授講演より


 


月刊建設データ2011年10月号掲載

 


 



蟹澤宏剛



なぜ保険加入なのか



二つ目は、たぶんこれが一番の目玉です。

技能労働者の雇用環境の改善ということは、保険加入への配慮だという言い方をしました。1995(平成7)年の「建設産業政策大綱」だとか、2007(平成19)年の「建設産業政策2007」でも、一貫して「技能者を大事にしよう」とか、「技能者の処遇を向上させる」と言っているのですが、抽象的なことを言っても結局何も起こらなかった、ということがあります。

僕が問題に感じているのは、従来技能者を直接雇用し、訓練校をつくることがいいことだと推奨されていたことです。そして、こんないい会社があると具体的な社名と、取り組み内容が紹介されていたが、今ではそれらの会社はほとんど残っていない。

職人に保険をかけて、訓練校をつくって、寮をつくって、有給休暇を与えてなんてことをやったら、ダンピング競争の中で勝てるわけがないのです。


 ですから、戦略会議に最初に呼ばれた時にも、「今回は中途半端なことをやったら業界が許してくれない。本気でやるのかどうか。国交省の本気を示してほしい」と申しました。

僕が座長を務めた国交省の「建設技能労働者の人材確保のあり方に係る検討会」では、「処遇向上だとか中途半端なことを言わずに、最初から保険加入でいきましょう」と申し上げたのです。

実際に統計をお見せしますが、年金や保険の加入率はとても低い。職人に限れば、年金に入っている人はゼロに近いと思います。同様に雇用保険に入っている人も非常に少ない。これをどうするかということです。

このほか幾つかあるのですが、例えば供給過剰の是正。これは言い方を間違えるとすごく危ないのですが、要するに、まともな会社に残ってもらって、そうでないダンピングをするような会社、不公正な競争をやっているところを無くすためにはどうするかということです。それを考えた結果が、法人として保険にも入っていないような組織を「不良不適格業者」だと定義して、市場から出ていってもらおうということです。

そうは言っても、本当にできるのかという話があります。国交省は、中央建設業審議会と社会資本整備審議会の下に委員会を設けて具体的にどうするのかということを検討するということなので、正に本気です。

それでは、どうやって不良不適格業者を排除するのかということですが、今のところ、建設業許可の更新時に保険加入状況を確認して許可を出さないとか、立入検査をどんどんやってその時に入っていない場合には罰則を科すなどの案が出ています。具体的にはこれから検討を始めるところです。

このほか、大震災関連ですが、地域維持型契約と同じように、随意契約でよいとか、一般競争入札でなくてもよいとか、地域要件を付けてよいなどの提言がなされていて、既に一部で実行されています。

さて、先ほど申し上げた保険未加入問題です。

統計上の数値で見ると、雇用保険加入は建設業で6割、製造業で9割となっています。健康保険はいろいろありますので参考数値となります。厚生年金は、建設業が6割なのに対して製造業は87%となっています。これは建設業の職員全体の数字ですから、技能者のレベルで見るとゼロに近いのではないかと考えています。

国交省は「人材確保のあり方検討会」の中で画期的なことをやってくれました。公共工事の労務費調査というものがあるのですが、実はそこで保険に入っているかいないかという調査をしていまして、今まではあまりにもすごい数字だから公表しないということだったらしいのですが、今回、僕に相談がありまして「こんな結果が出ているが公表していいのですかね」「出しましょう。出さないと良くならない」と話しをして、今回から公表することになりました。



資料は、どれくらいの会社がちゃんと厚生年金などの保険に入っているかというのを集計した一部です。ご存知のように労務費調査というのは公共工事をやっている会社のうち、帳簿が整っているところのデータだけ採用され、そうでないものは棄却されてしまうのです。そうして残った人たちのデータですから、かなり優秀な会社のデータしか入っていないのです。それでもちゃんと保険に入っている会社は、東京だと3割しかないという結果が出ています。一次下請けだと7割くらい入っているけれども、二次になると6割、三次になると半分以下になるという実態が示されています。これは根深い問題があります。

「そうは言ってもちゃんと入っている会社もあるのだから、不公正なことにならないようにちゃんとしようよ」というのが、今回の戦略会議の「方策2011」の中で申し上げたことです。

次は僕が数年前に調べた結果です。建設専門団体連合会(建専連)は日本建設業団体連合会(日建連)の提言に合わせて提言を出しました。その際に、実態をつつみ隠さず公表した。なぜこうなのかも含めて提言しましょうということで、保険にどれくらい入っているかを調べました。

躯体系だとだいたい1割くらい、仕上げ系は比較的多いけれども3〜4割、土木系はオペレータが含まれるので6〜7割と高い割合になっています。

この建専連の提言の中では、なぜこういう数字になるのかという言い方で話を展開しました。例えば労災は元請けが一括で入るようにしようというような具体的な提言もしました。

きょうは詳しくお話しできないのですが、お隣の韓国では、法律で二次下請け以下はやってはいけないと決めています。どうやって実現しているかというと、労災は一人親方でも何でも関係なくゼネコンが一括加入します。雇用保険も現場で一括加入するというやり方をしているのです。日本でそれをするのは非常に大変なことですが、外国では実際にやっている例もあるということです。

今言った話が本当にできるのかということでありますけれども、実はもう自動車とかトラックの業界では取り締まりをやっておりまして、営業停止が出たりとか、効果を上げていると聞いています。





正直者がばかをみないように

「方策2011」のどういうところが良かったのかということを申し上げます。

私見ですが、まず、解釈の問題ではなく明確な方針を打ち出したことが挙げられます。「保険に加入してください」とか、「地域要件ですよ」とか、「必ずしも競争しなくてもいいですよ」ということを具体的に書いたことです。

それからすべてが「いい加減なことを言うな」と突っ込まれないように、バックデータを用意したことです。

さらに、従来は片目をつぶっていた法令順守の徹底ということを、ちゃんとやろうというスタンスを示したこと。先ほど申し上げた真面目な会社がつぶれちゃうのでは困る。そうでないようにする。正直者がばかをみないように、ちゃんと考えようということが入っている。これは、なかなかいいことができたと思っています。従来の業界の常識を是認しないで、痛い所を突いていこうということでもあります。

もう一つ、これも大事なことなんです。技能者問題は、今までは、どうしても厚生労働省の問題になってしまったのですが、これを建設業法の俎上(そじょう)に乗せるようにしたことです。技能士というのは素晴らしい制度なのですが、1級を取ったからといって給料が上がるわけではない。その辺の仕組みがよくできていない。建設業法で扱えば、もう少し別の展開ができるのだろうと、一生懸命考えました。

 





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