2015年4月12日の静岡市長選挙に当選、田辺市政の第2幕が上がった。市長は、はやる気持ちを抑えて礎づくりに注力した第1期4年間の市政への「忍耐」を、静岡が誇る名君、徳川家康の名言を借りて「及ばざるは過ぎたるに優れり」と表現した。そして、スタートした2期目。「静」から「動」へ。掲げた第3次総合計画の御旗の下、田辺信宏市長自らが陣頭に立ち、馬首を返して攻めに転じる。インタビューでは、懸案となっていた具体的な事業名も次々と上がるなど、春の雪解けを待っていたかのように「動き出す市政」の気配を漂わせた。
―1期4年間を振り返ってどうか
1期目は、財政の健全化に注力した4年間と言える。建物を建てるには、まず基礎を築かねばならない。行政も同じ。「何もやってないじゃないか」「決断力がないんじゃないか」と市民に言われたこともあったが、格好をつけるのでなく「及ばざるは過ぎたるに優れり」という気持ちで甘んじて受け止めつつ、大規模な投資は控えてきた。
―2期目に入られて、これからは積極的な投資を行うのか
どんどん自らのカラーを出していきたい。限られた財源ではあるが、今後は、地域経済を回していかねばならないし、投資も積極的に行っていきたい。大規模投資は、建設業を中心とした裾野の広い産業に広がっていき、地域経済が改善していくだろう。
今、「ストック効果」という言葉が流行語のようになっている。一時期、公共事業は無駄使いといった風潮もあったが、今は国も社会資本整備は積み重なって人々の暮らしを豊かにしていくものだとの認識を示しているし、私も同感だ。公益性の高い、ストック効果の高い公共事業はどんどん進めていくべきだと思っている。そういう意味で、中部横断自動車道整備や静清バイパス拡幅などは目標年度の確実な完遂を目指す。もちろん、高速道路だけでは機能しないので、アクセス道路の整備も着々と進める。
産学官の連携による海洋文化拠点の整備や、東静岡の市有地についても脈絡の中で進めていきたい。
―第3次総合計画でも「ないものねだり」でなく「あるもの探し」という視点で、「強み」の強化を目指しておられるが、市長の考えられる「あるもの」とは
たくさんあり過ぎると思うが、一つ挙げると大谷・小鹿の新スマートインターチェンジ周辺地区ということになるだろうか。静岡市の中で、発展性のある最後の市街化調整区域だと思っている。「あるもの探し」という意味では、「ものづくり」。プラモデルの世界首都と形容される静岡市のイメージを、さらに強めるような企業集積、工場集積を図っていきたい。自らも先頭に立って誘致活動を進めている。
―「海洋産業クラスター創造事業」もそうした取り組みか
駿河湾は最大水深2500bを誇る国内最深の湾で、特徴的な地形や生態系を持ち、世界的に見ても地勢学的・水産学的に貴重な実証実験フィールドであると言える。
そして、市には造船業や船舶装備品製造業などから派生した機械・金属工業や水産資源を活用した食品加工業など、海洋に関連したさまざまな企業の他、日本で唯一海洋について総合的に学べる東海大学海洋学部、国立水産総合研究センター、清水海上技術短期大学校などの機関が集積している。
「海洋産業クラスター創造事業」は、こうした強みを効果的に組み合わせ、磨き上げることで、地域と産学官の連携による市独自の取り組みを創出しようというもの。地域産業界の海洋関連産業への参入意欲を引き出していきたい。
―具体的な街づくり政策をお聞きしたい
少子高齢化や人口流出の問題もある中、中心市街地では、にぎわいのある活気溢れる人の行き交う街づくりを目指すそうだが、第3次総合計画では、本市の強み「歴史」「健康」という長所を磨き上げ、「世界に輝く静岡の実現」を具現化しようという方向になっている。また、人口は都市の活力の源であり、総人口70万人を維持するため2015年度に「静岡市人口ビジョン」と「静岡市総合戦略」を掲げた。
第3次総合計画における6つの重点プロジェクトのうち、「歴史都市」では、静岡浅間神社などとの回遊性を高めながら、駿府城公園「桜の名所」づくりや歴史文化施設整備を進めるとともに、「サクラダファミリア方式」によって天守台の整備を推進していきたい。
具体的には、天守台については、現在、2016年度からの発掘調査に向けた準備作業を進めている。調査では、位置・構造などを検証し、天守閣を見据えた天守台整備の検討を行う。
市民文化会館は、にぎわい創出やMICE推進の拠点として重要な施設。観るスポーツや大規模コンサートなどの興業に対応する多目的アリーナの併設を見据えて、その可能性を検討していく。
歴史文化施設は、駿府城公園エリアと一体的に整備することで静岡の歴史的名所の核とする。市内各所の歴史資源をめぐる回遊の拠点とすることで、市域全体の活性化を図りたい。
―人口減少問題、都市の拡散・低密度化が厳しさを増す中で、市域全体の運営に当たっては「コンパクトシティ」という考え方もされている。
これまでの「拡大・成長」という路線から「成熟・持続可能」への転換が必要だと思う。都市の既存ストックを有効活用し、さまざまな都市機能がコンパクトに集積した都市構造を目指していく。
都市や地域の中心となる鉄道の駅周辺、バスの利用がしやすい地区に市民生活に必要な都市機能を集約して拠点性を高め、これらの拠点を公共交通で結ぶことを考えている。
さらに、市街地周辺の広域都市基盤を活用した工業・物流などの産業集積により発展が見込まれる地域、歴史・自然などの観光ポテンシャルが高い地域を効果的に活用していく。
本市では、都心・副都心の魅力に磨きを掛けるとともに三保松原や日本平、清水港ウォーターフロント、東名新スマートインターチェンジ周辺など交流拠点の整備を進めている。鉄道、バスや自転車の利用環境の充実によって、これらを有機的に結びつける交通ネットワークを構築していきたい。
代表的な事業では、静岡都心では中心部への自動車交通の適正化や歩行者、自転車、公共交通が利用しやすい交通環境の実現に向けた、環状道路の整備、適正な駐車場立地誘導などを進める。
清水港ウォーターフロントでは、新たな交通システムやバス、徒歩、自転車、水上バスなどによる回遊性の向上を図っていきたい。草薙駅周辺では、バリアフリー化された駅舎とともに、駐輪場整備などによる利用環境の向上、追分・大坪駅新駅設置についても、課題、対応策などを含めた協議を行っている。
―静岡市は国内でも高度な災害への取り組みがなされた自治体だと思うが、津波対策、土砂災害対策について伺いたい。
津波対策については、避難対策としてこれまでに津波避難ビルを140施設指定し、津波避難タワーを9基整備している。さらに、2月には津波避難タワー1基、築山1基が完成する見込みとなっている。今後も空白エリアを解消すべく同様の取り組みを促進する。併せて避難場所の方向を示す路面シートや道路照明灯への避難路案内看板設置を進めている。
ソフト面で、小中学校での津波避難教育や自主防災組織による訓練支援などにも継続して取り組んでいきたい。
本市の土砂災害危険箇所は3092カ所と多く、施設整備には膨大な時間と費用を要するため、避難体制の整備や新たな建築物への制限などといったソフト対策として制定された土砂災害防止法の指定を県と連携して進めている。
土砂災害(特別)警戒区域は、崖くずれ、地すべり、土石流などの土砂崩壊により住宅などの建築物が倒壊して居住者の生命・身体に大きな影響の生じる恐れがあることから、建築、開発に制限がかかり、住民にも避難を促す区域となる。同時に、市の地域防災計画に基づいた警戒避難体制の整備を行っている。
建設会社の皆さんには、災害発生時における各種応急復旧活動に関する人的・物的支援について感謝するとともに、今後とも協力をお願いしたい。
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