解説 労務費の基準(1)賃金原資を確保する"武器"に 第3次担い手3法が全面施行
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きょう12月12日、第3次担い手3法が全面施行され、「労務費の基準」に基づく請負契約の新たなルールの運用が始まる。技能者に支払う賃金の原資を、発注者と元請け、下請けという建設工事のサプライチェーン全体で確保しようとする新たな制度が動き出す。個々の建設企業がこのルールを価格交渉の"武器"として使いこなせれば、担い手を確保し、競争力を強めることにもつながる。
改正法の全面施行により、建設業の商慣習は大きな転換を迫られる。従来、総価一括請負の契約慣行で、労務費は材料費などのコスト上昇分のしわ寄せを受けやすく、下請けが重層化するにつれて労務費が目減りする傾向も見られた。労務費の基準は「適正な労務費」の相場観を示し、労務費のダンピング競争に歯止めをかけることで、末端の技能者に賃金を行き渡らせる仕組みとなる。
■起点は建設業者の見積もり
新たなルールの運用が労務費の確保に直結するわけではない。起点になるのは、建設業者による適正な見積もりだ。改正法では、建設業者に材料費や労務費、必要経費を内訳明示した見積書(材料費等記載見積書)を作る努力義務を課す。
その上で、基準に照らして著しく低い労務費による見積もりや見積もり依頼を禁止。見た目上、労務費を確保していても他の経費を削ることのないよう、総価での原価割れ契約を受注者にも禁止する。著しく短い工期による契約締結も禁止し、工期ダンピングを防ぐ。違反した建設業者は指導・監督の対象となる。発注者も勧告・公表の対象とし、適正な労務費確保の実効性を担保する。
■基準は全ての工事に適用
労務費の基準は、公共工事・民間工事を問わず、受発注者間や元下間など全ての請負契約に適用される。適正な労務費を「公共工事設計労務単価×条件に応じた歩掛」に必要な施工量を乗じた額と位置付け、価格交渉の相場とする。行政が指導・監督する際の参考指標にも活用する。
価格交渉を円滑化するため、国土交通省は専門工事業団体などの協力を得て職種分野別に「労務費の基準値」も作成した。初弾は13職種分野の99工種が対象で、標準的な施工条件・作業内容での単位施工量あたりの労務費を示す。基準のポータルサイトで、都道府県・職種分野別に検索、閲覧できる。
実際の工事では、基準値を参考にしながら現場ごとに適正な労務費を見積もる必要がある。発注者や元請け、上位下請けといった工事の注文者は、提出された見積もりを尊重しなくてはならない。もちろん、基準値が整備されていない職種分野であっても、労務費の基準の考え方に沿った適正な労務費を確保することが求められる。
■生産性の競争へ
労務費に基準が設けられたとき、建設業者は何を競争力とすべきか。答えの一つは生産性だ。基準を構成する労務単価部分を著しく引き下げることは違法となるが、独自の工法・技術で歩掛を改善し、基準値よりも安価な労務費で受注することは認められる。
基準を守って適正な労務費を見積もっても、他の建設業者がダンピングをやめなければ「正直者が馬鹿を見る」との不安も建設業界には根強い。このため、国交省は、建設Gメンによる監視・指導の強化や、技能者賃金の通報制度の整備、技能者の処遇確保に前向きな企業の可視化など多岐にわたる実効性確保策を講じる。
公共工事については、入札金額内訳書での労務費の内訳明示の義務化や、公共発注者による労務費ダンピング調査など上乗せの対策を実施する。
実際に支払われている労務費が上昇すれば、公共事業労務費調査に基づく公共工事設計労務単価も上昇し、結果として労務費の基準もより高い水準となる。こうした持続的な処遇改善の好循環を実現するには、下請けから元請け、発注者へと価格交渉の努力を積み重ねることが何よりも重要になる。
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労務費の基準は、発注者との価格交渉のツールとなり得るものですが、複雑で分かりにくい側面もあります。この連載では、建設工事の受注者が労務費の基準を使いこなせるよう、見積もりでの活用方法、ペナルティーの運用、公共工事での対応などを解説します。
