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建滴 次なる広域大規模災害に備えを

2011/9/5 中部版 掲載記事より

未曾有の大災害をもたらした東日本大震災からまもなく半年になる。この国には被災地の復旧・復興と同じくらい、極めて重要なテーマがある。それは大震災の発生から今日の復旧に至る過程の検証だ。「1000年に一度」といわれる規模の地震が、いつ、再び、この国土で起こらないとも限らない。私たちは、今を生きる日本人が初めて経験した広域的かつ複合的な大規模災害の教訓を「次なる災害」の被害軽減につなげなければならない。
 震災は、尊い多くの命と営々と築き上げてきた個人の資産を奪い、地域の生活と産業、社会資本に甚大な被害をもたらした。
 いつの間にか、私たちは、被害想定を「想定以上の規模の災害は起きない」と勝手に思い込んでしまっていたのではないか。私たちができること、やるべきことは、自然災害による被害を最小化する「減災」であり、災害が発生した場合は、1日も早く日常の生活と生産を取り戻すための「事前の準備」ではないか。
 「減災」の方策については、この間、建設業界の多様なプレーヤーや学会などが、それぞれが自ら実施した調査結果や知見に基づいて「次なる災害」に備えた提案・提言を行ってきている。これらに共通しているのは「土木構造物や施設は毀損(きそん)しても、人の命だけは何としても守らなければならない」という強い思いだ。
 「事前の準備」についていえば、何を置いても災害協定の在り方を見直す必要がある。なぜなら、既存の災害協定は、そのほとんどが同一または隣接した都道府県での発生を想定した「局地災害」を前提としたものだからだ。
 今回の震災では、これまでのレベルの災害であれば、被害の拡大防止・応急復旧に真っ先に駆けつけたはずの地元の建設業者や社員らが被災した。建設業の災害協定の締結相手である地方自治体と、国の出先機関も職員の多くが被災し、機能不全に陥ったケースが多かった。クライシスマネジメントを行うべき行政と、実行部隊となる建設業が同時にその機能を失うということが、現実に起こりうることを私たちは知った。災害は、限定された地域だけで発生するとは限らないという当たり前のことを、いまさらながら思い知らされた。
 土木構造物の設計は、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、それまでの「(土木構造物が壊れない)弾性設計)」(レベル1)に、「(土木構造物は変形するが限定的な破壊にとどめる)塑性(そせい)設計」(レベル2)という概念が加わった。そして、今またこれら二つの概念を超える「超過外力」(レベル3)という新しい概念の導入が検討されようとしている。「防災」の体制の在り方も、官民それぞれの役割にも、災害の規模による異なるレベルの「備え」があっていい。
 この国は、ハード・ソフト対策以前に「防災の在り方」自体を見直さなければならないのかもしれない。