建通新聞社

建設新聞読むなら建通新聞。[建設専門紙]

建滴 遅れる長寿命化対策 まずは正確な試算・公表を

2012/2/27 静岡版 掲載記事より

高度成長期に完成した社会資本の維持管理・更新費の増加が危惧される中で、ここ数年にわたりその必要性を指摘されてきた長寿命化対策の進捗が遅れている。総務省が行った調査によると、特に地方自治体における対策の遅れが目立つ。長寿命化の前提になる定期点検の実施や法令台帳の整備、長寿命化計画の策定やそれによる効果の把握・検証が不十分な自治体が数多く見られたという。
 総務省は、国・地方自治体が管理する▽上下水道施設▽港湾施設▽空港施設▽河川管理施設―を対象に維持管理・更新の実施状況を調査し、長寿命化対策が不十分だとして国土交通省と厚生労働省に改善措置を講じるよう勧告した。
 この調査では、港湾施設や上下水道施設で定期点検が未実施だったり、点検結果のデータベース化を行っていない状況が明らかになったほか、施設の現況を把握するための法令台帳でさえも十分に整備していない自治体も数多くあったという。総務省は、2010年2月に道路橋における対策の遅れに対しても、同様の勧告を行っている。
 一方、総務省は、全国の地方自治体を対象に社会資本の維持管理・更新に関する意識調査も同時に実施した。この調査では、実に96・5%の自治体が「社会資本の維持管理・更新需要の増大が懸念される施設がある」と回答。特に、自治体が不安を抱くのが長寿命化対策に必要な財源確保の問題。意識調査に回答した1473団体のうち、およそ9割の自治体がこの問題を課題として挙げた。
 しかし、社会資本を適切に維持管理・更新していないだけでなく、施設の現状すら把握できていない自治体が数多くある。また、同じ意識調査では「住民に知らせると誤解や動揺が生じる恐れがある」「公表のための統一的なルールや方針がない」などの理由で、自治体の3割が社会資本の現状を公表する必要がないなどと回答した。
 昨年11月に行政刷新会議が行った提言型政策仕分けでは、社会資本の維持管理・更新を「現状では持続可能性がない」と断じた上で「公共投資の全体像について一層の説明責任を果たすべき」と要求した。厳しい財政状況の中で新規投資を抑制し、維持管理・更新に注力する方向性も合わせて示している。
 社会資本の管理者である市町村は、早急に施設の老朽化の状況を把握し、将来の維持管理・更新費を可能な限り正確に試算・公表すべきだ。必要な予算額がどれだけ膨大になろうと、正確な試算を把握し国民に伝えなければ、社会資本の維持管理・更新を議論するスタートラインに立つこともできない。