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建滴 復興事業の円滑化にICTの活用を

2012/3/27 四国 掲載記事より

東日本大震災から1年。ようやく復旧・復興事業が本格化しようとしているが、被災地では人材不足や人件費の上昇などにより入札の不調が相次いでいる。復旧・復興事業は今後ますます増え、業務は輻輳(ふくそう)する。円滑な復興には、国土交通省が進めようとしている復興JV制度などに続くさらなる対策を打ち出すことが必要だろう。この一つとして、ICT(情報通信技術)の積極活用による支援が考えられている。
 公共事業分野のICTの活用は、建設CALS整備基本構想に基づいて進められてきた。これまでに、電子入札や電子納品、情報共有などが実現。取り組みの一部は、大震災の復旧にも大きく貢献した。例えば、完成直前に施工物や現場事務所などが津波で流出した宮城県名取川の現場では、情報共有システムを導入していたことにより、データを復元でき、施工物の出来高確認と支払いの円滑化につながった。
 このような評価の一方で、電子納品した成果品の利活用が進んでいなかったり、情報の共有が施工段階のみで、設計や維持管理との連携ができていなかったりする課題も指摘されている。
 そこで、CALSの具体化を支援してきた日本建設情報総合センター(JACIC)は、これまでの成果を連携して最大限活用する「BCP(事業継続計画)サポートシステム」に取り組むことにした。新たなシステムを開発するのではなく、既存の成果を人(BCPサポーター)がつなぎ合わせて、ワンストップで提供するものだ。
 具体的には、書類や図面などの情報をクラウドコンピューティングで安全・効率的に保管する「電子図書館サービス」や、撮影した写真を、位置情報を基に自動的に整理・登録する「写真管理サービス」などがある。これらは、音声や手書きで文章入力が可能なタブレット端末により、現場でも円滑に利用できる。
 現在、限られた人員で輻輳(ふくそう)する復興事業を進めている被災地の支援を目的に、国土交通省東北地方整備局管内の5つの出張所にBCPサポーターを派遣。システムの効果を計測する「研究」として、既存業務のやり方を迅速・抜本的に見直している。
 この取り組みの評価すべき点は、トップが決めて現場に「やらせる」トップダウン方式から、現場をしっかり踏まえて施策を考えるボトムアップ方式への転換だ。BCPサポーターは、現場に寄り添って実際の業務を踏まえ、その場で効率的な手法を提案・実施する。リアルタイムで効率化の恩恵を受けられるため「忙しい現場ほど喜ばれている」(JACICの担当者)という。
 2012年度には、情報化施工や電子検査、維持管理分野にまで対象を広げて効果を計測し、幅広い関係者に取り組みの有効性を発信していく方針だ。
 少子高齢化の中で維持管理ストックが急増する今後、現場の実情を踏まえて業務を効率化しようとする今回の取り組みは、被災地以外にも有効なはず。国土交通省をはじめとする発注者は、将来を見据えた建設生産システム全体の業務改善(BPR)につなげる手法として積極的に採用していくべきだ。