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建滴 公正な地価評価が再建の足掛かり 被災地集団移転

2012/3/19 東京版 掲載記事より

東日本大震災からの復興に向けて、被災自治体が策定作業を進めてきた復興計画がほぼ出そろった。再生への槌音(つちおと)が徐々に大きくなる一方、沿岸部などに暮らしていた住民の生活再建はほとんど手付かずだ。各県で検討中の高台への集団移転(防災集団移転促進事業)に伴って、被災者から買い上げる土地の価格は震災前の60〜70%と見込まれており、約12万棟とも推計される全壊住戸の建て替えなどの大きな障壁となっている。
 防災集団移転促進事業は、再建築を認めない災害危険区域の指定を条件に、国が事業主体の市町村に事業費の一部を補助。市町村は補助金を財源に被災者から土地を買い上げ、被災者は土地の売却益を移転先の宅地購入資金などに充てる仕組みだ。
 土地の買取価格を決める上で、地価は一つの指標となる。一般的に、地価の調査は過去の取引実績を加味して実施するものだが、津波被害に遭った後の土地の取引はほとんどなく、これまで評価した事例も限りなく少ない。
 鑑定の参考資料に、自治体ごとの浸水面積割合や被災した事業者数・従業員数などのデータを活用することも考えられるとはいえ、価値基準としては不十分だ。
 また、市町村ごとに異なる手法で評価されれば、公平性が保たれなくなる可能性も高まる。算定に当たっての統一基準が必要なことは言うまでもない。
 そんな中、宮城県は地価の算定業務を一括して宮城県不動産鑑定士協会に委託した。評価の公平性を担保する意味では理にかなった対応で、県内の15市町約100地点を対象に、3月末までに評価を終える予定だという。
 不動産鑑定士の作業は困難を極めているだろうが、被災者の今後の暮らしを左右するだけに、冷静で客観的な見地からの評価を求めたい。生活再建を待つ被災者にとって、評価結果を知ることは再出発の足掛かりになるからだ。
 加えて、適正な地価算定には復興計画の精度が大きく影響する。
 生活再建の実現性が高く、復興の完了時期も明記できれば、被災した土地の減価からの回復が見込めるはずだからだ。
 しかし、町村部などの復興計画は荒削りなものが少なからず見受けられる。被災者の生活再建や事業所の営業再開を1日でも早めるために、精査と一層の肉付けを急ぐ必要があるだろう。
 今回の地価の算定に用いられる鑑定方法は、ほかの地域で大災害が起こった際の物差しとしても活用される公算が大きい。それだけに、今後の標準モデルとなるよう、公正な評価を求めたい。