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建滴 無電柱化の推進

2017/3/27 

推進法が成立したことを受けて、国や地方自治体らによる無電柱化への取り組みが加速している。道路の防災性能向上などへの期待からで、中でも東京都は、知事肝いりの施策として基金700億円を創設することになった。とはいえ、わが国の整備水準は、コスト高などを理由として依然、低いのが現状だ。一般市民のニーズも高まりつつある、この事業を進むためには何が必要なのか。
 無電柱化の実現によって期待される効果は多い。防災性能を向上させるだけでなく、通行空間に安全と快適さをもたらし、良好な景観づくりにも寄与する。
 通行空間の安全性は、電柱の有無で大きく左右されるとのデータがある。それによると、一般道で起きた交通事故のうち死亡事故が占める割合は0・7%。これを電柱衝突事故に限ると、死亡事故の発生割合はその10倍に当たる7%にまでが跳ね上がる。また、幼い子どもや高齢者などの交通弱者にとっては、通行を妨げるだけでなく、道路上の死角を生む存在にもなる。
 景観上での課題はどうか。都市、地方を問わず、電柱とそこから張り巡らされる電線は美しい景色を奪う。東京都墨田区ではスカイツリーを、静岡県富士宮市では富士山を、といった具合だ。
 それにもかかわらず、わが国の無電柱化は遅々として進んでこなかった。ロンドンやパリなどでは無電柱化率が100%であるのに対し、日本では東京23区で7%、大阪市で5%と大きく立ち遅れている。さらに、1年当たりの整備延長も、2004〜08年度は440`だったものが、09年度以降では260`と大きく落ち込んでいる。
 整備が進んでこなかった要因の一つはコストの高さだ。「無電柱化を推進する市区町村長の会」の吉田信解会長(埼玉県本庄市長)によると、1`当たりの地中化費用(電線共同溝の場合)は5億3000万円を要し、うち自治体の負担分が3億5000万円に上る。国土交通省の有識者会議で吉田会長は、「要望が多い道路拡幅でさえ対応しきれていないのに・・・」と語り、財政負担の軽減を訴えた。
 もう一つは、地元の合意形成の難しさだ。「無電柱化には賛成だが、自宅前に地上機器(トランス)を置かれると困る」と考える住民は決して少なくないからだ。電力会社など事業者や自治体にとって悩みの種となっている。
 こうした課題にはどう対応するべきか。コスト高に対しては、低コスト技術の開発が進んでいる。管路の浅層埋設、小型ボックス内へのケーブル埋設、ケーブルの直接埋設などで、こうした技術が標準化されることへの期待は高い。
 一方の「円滑な合意形成」は、事業の目的やメリットの周知を根気よく行い、住民理解を得る努力が必要だろう。「電柱や電線のない道路空間が当たり前との意識を醸成したい」(吉田会長)との思いは、多くの関係者に共通しているはずだ。
 防災や景観にとどまらないメリットの追求や、PFIをはじめとする新たな方式の導入など、あらゆる手だてを講じて山積する課題をクリアしていきたい。市民が求める事業の実現へ、今は追い風が吹いている。