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正確な実態把握、除去を急げ

2017/7/3 

国土交通省は、民間建築物に使用されているアスベスト(石綿)の使用実態調査や除去などの推進を求める住宅局建築指導課長名の通知を46都道府県の建築主務部長に宛てて出した。同省は、石綿含有建材が使用された可能性のある民間建築物の数を約280万棟と推計している。アスベストを使用している建物を放置しておけば、ばく露による新たな健康被害者を生み出しかねない。建物解体時の労働安全衛生法石綿障害予防規則(石綿則)や大気汚染防止法に基づく事前調査を待つことなく、可能な限り速やかに建築物でのアスベストの使用実態を把握し、適切に管理・除去しなければならない。
 同省がこのタイミングで46都道府県の建築主務部長宛てに通知を出したのは、NHKが6月12日にクローズアップ現代で特集「“新たな”アスベスト被害〜調査報告・公営住宅2万戸超〜」を放送したことと無縁ではなさそうだ。
 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(事務局・東京都江東区)とNHKが共同で調査した結果、全国の公営住宅で吹付けアスベストなどを使用した住宅が2万戸超に上ることが分かった―としたこの番組の反響は大きく、同会が開設した「建物アスベスト被害ホットライン」には、放送翌日からの2日間で1000件を超える電話などがあった(同会発表)。
 だからと言って、これまで国交省が公営住宅をはじめとした膨大な数の公共・民間建築物のアスベスト対策に及び腰であったという訳ではない。
 クボタ尼崎工場周辺住民らのアスベスト粉じんばく露による健康被害報道に端を発してアスベストの危険性が社会問題化した、いわゆるクボタショックの発生を受けて、社会資本整備審議会建築分科会にアスベスト対策部会を設置。この間、建築物での実効性のあるアスベスト対策の在り方について調査・検討を続けてきた。2013年には「建築物石綿含有建材調査者制度」を創設し、建築物に使用されているアスベストを正確に、そして公正に調査できる人材の養成を進めている。
 国交省は6月22日に発出した通知の中で、特定行政庁に対して1956(昭和31)年〜1989年までに施工された民間建築物のうち、@集会場Aホテルおよび旅館B飲食店、物販店舗その他の用途が含まれる建築物で全体の延べ面積が300平方b以上のもの―などは、その社会的リスクが大きいとして「優先的に実態を把握し、除去などの対策を講ずべき建築物」との認識を示した。
 その一方で、調査結果を「アスベスト調査台帳」に掲載するだけでなく、社会資本整備総合交付金などによる補助制度を活用し、所有者・管理者による調査・除去の実施を積極的に支援するよう促しもした。
 石綿含有建材の中でも飛散性の高い吹付け材は、特に健康被害の発症リスクが高いことが知られている。対策の主戦場が「解体現場」にあるということも疑いのないところだ。だが、経年劣化や損傷のない建物などは、まずこの世に存在しない。私たち都市住民が暮らす空間には、吹付け材ならずとも、石綿含有建材を使用した建物が、すぐそこに存在していることを忘れてはなるまい。