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建滴 住宅弱者と不動産業 「安全網」の実効性高めろ

2017/7/24 

わが国が本格的な人口減少社会を迎える中で、日常の住まいの確保に困窮する、いわゆる「住宅弱者」が増え続けている。今後10年で100万人もの増加が予測されている単身高齢者だけでなく、非正規雇用の増加を背景に若年層の中にも、厳しい制約の下での住まい探しを余儀なくされるケースがある。
 これまでは住宅弱者の受け皿として、公営住宅がその役割を担ってきた。しかしながら、財政面で余裕のない地方公共団体が多く、増設はおろかストックの活用も十分にできていないのが実情だ。
 一方、空き家問題が深刻化している民間の賃貸住宅の活用にも大きな障壁がある。家賃の滞納や居室での「孤独死」のリスクから、特に高齢者との賃貸契約に慎重なスタンスを取るオーナーが少なくないからだ。
 このように居住の安定の確保が全ての人に行き渡らない状況下で、不動産業は何の行動も起こさなかったわけではない。
 高齢者の相談に耳を傾け、オーナーに対して入居条件の緩和を申し入れてきた不動産業者は枚挙にいとまない。しかし、このような個社単位の取り組みには限界があり、住宅弱者のセーフティーネットが完全に機能するまでに至っていない。
 こうした状況を受けて、先の通常国会では住宅弱者の民間住宅への誘導を柱とした「改正住宅セーフティネット法」が成立した。高齢者や低所得者、子育て世帯らを「住宅確保要配慮者」に位置付けて、あらかじめ登録された空き家住宅の情報を提供する制度の創設を盛り込んでいる。
 「要配慮者」に対して登録物件に入居する際に家賃の一定額を補助する他、オーナーへも家賃債務保証費や住宅改修費を助成する。改修の対象となる住宅は相当数あると見込まれ、その担い手である中小建設業者の役割も小さくないだろう。今秋に施行され、2020年度までに17万5000戸の登録を目指すという。
 増え続ける空き家を活用するという、改正法の仕組み自体は評価していい。ただ、その実効性を高めるためには、今一度「生活弱者とは誰なのか」を明確化しなければならないはずだ。
 と言うのも、すでに一部の地方公共団体が「空き家バンク」などの登録制度を設けているものの、低家賃帯の登録物件数が少なく、低所得者層のニーズに合致しているとは言い難い。平均的な所得を有する子育て世帯の安心な暮らしを確保することは大切だが、生活保護受給者や障害者、一人親世帯らに向けた低家賃の住宅がふんだんに供給される仕組みでなければ、セーフティネットの強化につながらないだろう。
 改正法の下で新たに設立される「居住支援協議会」の中では、不動産関連団体が物件登録や情報提供、あっせんなどの中核的な役割を担う。「掛け声」だけで終わらせないためには、低家賃帯の物件を増やすためのビジネスモデルを構築する必要がある。
 これまで、不動産業界は「空き家」と「住宅弱者」という二つの深刻な問題に向き合ってきた。今後、住宅ストックは供給過多になるが「市場原理が働き、誰もが住宅の確保が容易になる」という変化を起こすための手立てを、行政や福祉系事業者らと共に知恵を絞り、考えるべきだ。