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就労環境と待遇改善、建設関連産業でも展開を

2017/8/21 

産業のさまざまな現場で人手不足の問題が影を落としている。建設業界では、担い手の確保・育成と、これに向けた就業環境や待遇の改善が業界の将来を左右する重大な課題になっている。建設業は関連産業の裾野が広い。問題は建設業の現場の外でも起こっており、建設生産システムに今後影響してくる懸念がある。
 例えば生コンクリートとその関連業界では運転手不足の問題が顕在化している。
 東京地区生コンクリート協同組合は7月、生コン1立方b当たり1000円の値上げを発表した。12月の引き合い受け付け分から適用する。値上げの背景にあるのは、生コンや、原材料の骨材を運ぶ運転手らの高齢化など輸送力低下への対応だ。
 東京地区生コン協組の組合員が工場で使用する粗骨材の4割、細骨材の3割は、栃木県を中心とした内陸産だ。栃木県砕石工業協同組合の2016年度の調査によると、骨材を運ぶダンプカーの運転手の年齢は50歳超が64%を占め、36%が60歳を超えている。運転手の高齢化と離職が進む一方、若い運転手を確保しようにも、賃金が低いため集まらない。特に東京向けは深夜の走行になるため敬遠されるという。
 そこで栃木県砕石工業協組は、運転手の待遇改善に向けて、東京地区生コン協組に対し、10月1日からの骨材の値上げを申し入れてきている。値上げ幅は東京都中央区まで運んだケースで1d当たり600円だ。
 生コンを運ぶミキサー車の運転手の高齢化も進む。東京地区生コン協組の16年度の調査では、23%が60歳を超え、これを含め50歳超が53%を占めている。生コン業界では16年度の需要の減少によって離職者が増えた。その結果、庸車の使用が増加し、輸送コストの上昇につながっている。
 人手不足の問題は車両の運転手だけにとどまらない。東京地区生コン協組の組合員が使用する粗骨材の5割超、細骨材の7割超は船舶によって回漕(かいそう)されてくる。回漕を担う千葉県内航海運組合の16年度調査によると、船員のうち56%が50歳を超え、60歳超が30%に上っている。
 さらに、回漕に使う船舶の減少と老朽化も深刻だ。組合員が保有する16年度の船舶数は50隻で、07年と比べ26隻減った。また、その50隻のうち24隻が18〜21年に船齢30年を迎える。船齢30年を超えた老朽船舶の運航はこれまで実例がない。
 千葉県内航海運組合では、船員や船舶の確保のために1d当たり500円の値上げを東京地区生コン協組に要望している。
 東京地区生コン協組では、「これらのコストアップを生コンの工場運営だけで吸収することは限界」だとし、生コン価格の引き上げへの理解を取引先に求めている。
 生コンは建設産業を支える重要な基礎資材だ。安定した供給体制を今後も確保・維持していかなければならない。輸送の問題に関しては、将来的に車両の自動運転技術などが大改革をもたらす可能性がある。しかし現状では、輸送の現場で働くドライバーの処遇改善が急務だ。
 建設業での就業環境と待遇改善に向けた新しいうねりを建設業の関連産業にも広げていく必要がある。