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都の入契制度改革

2017/10/16 

9月の議会の閉会後、東京都は入札契約制度改革の試行を全ての知事部局と公営企業3局に拡大する方針を打ち出した。先行する財務局案件で1者入札の中止による工期の遅延など、発注者・受注者双方に影響を及ぼす事態が現実となっているにも関わらず、その検証も議会での議論もないまま、“既定路線”として事務手続きだけが進められている現状に、建設業界や議会は強く反発している。
 都が入札契約制度改革の実施方針に基づく制度改革として工事案件で行う試行の内容は、@予定価格の事後公表AJV結成義務の廃止B1者入札の中止C低入札価格調査制度の運用範囲の拡大―の4点。知事部局のうち財務局が契約する比較的大型の案件を対象に6月から試行を始めた。
 小池百合子知事は、9月26日に開かれた都議会本会議で、財務局で開始した試行について「8月から開札が始まった。今後、案件を積み重ねながら検証作業を進めていく」と述べた。検証に当たり「例えば入札の参加者数や落札率の状況を見ていくことで、改革の効果が表れているのか確認する」との考えも示した。
 知事が自ら答弁したように試行は始まったばかりだが、当初から懸念されていた1者入札中止による“弊害”が既に顕在化しつつある。第1弾の設備工事2件で参加希望者が1者以下だったため契約手続きを中止したのを皮切りに、これまでに中止となった案件は30件以上に上る。低入札価格調査制度の対象となった入札も10件以上発生し、新たな失格基準によって最低価格の応札者が失格となるケースが多発。有効札の応札者全てが調査基準価格を下回り、調査時に調査票の不備や未提出により全員が失格となったため、不調となったケースもあった。
 中でも、豊洲市場への移転に向け、臨時議会まで開いて予算化した築地市場の追加対策工事は、9件のうち4件で希望申請者が1者以下だったため契約手続きを中止。参加条件などを見直して再度公表したものの、1件は希望者がなく、3回目の手続きを今後始めることにしている。着工時期と完成時期が延びることで、市場移転のスケジュールに影響を与えることが危惧されている。
 こうした事態が発生しているにも関わらず、その検証作業が行われないまま、また、試行の拡大の必要性などが議会で議論されないまま、都は試行の拡大に踏み切ろうとしている。「議会での議論を避けた」「低価格入札への誘導を危惧する声を反映する気がない」と業界から反発の声が上がるのは当然だ。
 小池知事は同じく9月26日の都議会本会議で「入札契約制度改革の検証を進めていく中で、引き続き業界団体の皆さんから意見を聞く」、「高品質な社会インフラの整備は、工事の受注者の力に支えられている。将来にわたって公共工事の品質を確保するためには、発注者である都が、適切な競争入札の下で、優良な事業者が適正な価格で受注できる環境を整備していく必要がある」とも答弁している。ならば、早期に検証作業を開始し、いま何が起きているのか、業界は何を危惧してるのかをきちんと把握すべきだ。導入ありきの試行の拡大はそれからでも遅くない。