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東京流域下水道が50周年

2019/5/27 

あって当たり前、機能しなくなって初めてその重要性に気付く。そんな普通の暮らしを支える極めて重要なインフラの一つが下水道だ。多摩地域で進めてきた東京都の流域下水道事業が今年4月、50周年を迎えた。あす5月28日に府中市内で式典を開き、市町村と連携して進めてきた流域下水道の事業成果を都民や区市町村、全国に発信するという。
 1969年4月、都は、現在の流域下水道本部の前身である多摩川流域下水道建設事務所を設置し、多摩地域の26市3町1村と連携して下水道整備を進めてきた。都が流域下水道幹線と水再生センター(処理場)を、区市町が各家庭から流域下水道幹線までの下水道施設をそれぞれ整備・管理しており、1日当たりの処理量は約97万立方bに及ぶ。多摩地域に暮らす人の生活や都市活動を支えるとともに、大量に排出される生活排水などで“ドブ川”“死の川”などとやゆされた多摩川の水質改善に大きく貢献し、市街地の浸水被害軽減にも寄与している。
 しかし、下水道事業は多くの課題を抱えている。過去50年間で都は水再生センター7カ所、ポンプ所2カ所、下水道管延長約230`などの施設を建設してきた。今後多くの施設が更新時期を一斉に迎える。下水道は耐用年数の長いインフラとされるが、それでも老朽化は避けられない。首都直下など大規模地震に備えた耐震化や、高度処理・準高度処理の導入による水質のさらなる改善、徹底した省エネルギーや再生可能エネルギーの活用拡大などの取り組みも求められている。
 一方、少子高齢化の進展と人口減少社会の到来を控え、料金収入の増加は見込めないのが実情だ。限られた予算の中で、多くの課題に対応するため、都では予防保全型の維持管理による施設の長寿命化や、その先を見据えた計画的な再構築などを順次進めている。今後はこれらをさらに徹底していかなければならないだろう。
 東京の下水道は民間事業者と連携した技術開発により、下水道管の更生や処理施設の高度化・省エネ化などさまざまな課題解決につなげてきた歴史がある。今後は民間事業者の技術力やノウハウをこれまで以上に積極的に活用し、ICTやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった革新的な技術を事業に反映させ、効率化やコスト縮減を具体化するべきだ。
 都民の生活と都市活動を支えている下水道事業は、普及率が100%に達しても永続的に進めなければならない。そのため、施策展開に当たってのパートナーとなる建設業界に対しても、人材の確保・育成など中長期的な施工体制整備の支援も重要になる。
 50周年は大きな節目だ。だからこそ、多摩地域を支える都市基盤として“あって当たり前”となった施設を今後も適切に維持し、サービスを向上させるために何が必要か、次の50年を見据えた長期的な視点から具体策を打ち出し、それをきちんと発信する必要がある。国内の下水道は今後、少子高齢化と人口減少によって事業環境がますます厳しくなる。そんな中で東京には、持続可能な下水道のモデルを示してほしい。