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ホテルのこれから 地域との距離感縮めたい

2019/7/1 

訪日外国人観光客(インバウンド)の伸びを背景に、ホテルの新規開業が続いている。国土交通省観光庁の宿泊旅行統計調査(確定値)によると、2018年の延べ宿泊者数は5億3800万人泊(17年比5・6%増)。このうち、日本人の延べ宿泊者数が4億4373万人泊(3・2%増)に対し、外国人の延べ宿泊者数は18・3%増の9428万泊。日本人と外国人のいずれも調査開始以来の最高値となった。
 外国人観光客は、いまや日本の経済成長にはなくてはならない存在だ。とはいえ、不透明な国際情勢や国内で頻発する自然災害など、いつ、どのような要因が現在の好況に変化を及ぼすかは予測できない。インバウンドを追い風にしつつ、政府が目標に掲げる観光立国と地方創生を実現するためには、観光の拠点となるホテルが果たす役割を今一度、考える時ではないか。
 ホテル自体が周辺エリアを活性化させる起爆剤になりそうな例がある。
 高級価格帯の宿泊施設を強みにしている星野リゾート(長野県軽井沢市)が、大阪市浪速区・JR大阪環状線新今宮駅前の敷地に建設中のホテルがそうだ。ここは長年、塩漬け状態となっていた市有地だった。
 同社がその土地での開業を目指す理由は、関西国際空港への交通利便性の高さだけではない。通天閣など観光資源が徒歩圏内に集積している点に目を付け、大阪らしさ≠体感できるエリアであることを宿泊客にアピールできる、と踏んだからだ。
 立地の見極めには、新しい視点が必要になる。いまの大阪は、御堂筋沿いの縦≠フラインにホテルが集中している。それが、夢洲エリアへの大阪万博やIR(統合型リゾート)誘致に見通しが立ってきたこともあって、業界筋は「これからは横≠ヨと新規立地が広がりそうだ」とみている。
 ホテルの稼働率と客単価を上げるためには、まず立地、というのがこれまでの常道だった。しかし、これからは交通利便性だけでなく、地域で暮らす人々に受け入れられ、気軽に利用されるための魅力づくりが問われるようになるだろう。
 地域に開かれたホテルとしては、米国を中心に市場を拡大している「ライフスタイルホテル」というタイプが参考になりそうだ。共有スペースで宿泊者と来街者、ホテルスタッフが交流できる場やイベントを設け、自宅や職場以外の「第三の場(サードプレイス)」を提供する。街と人をつなごうという、一つのチャレンジのかたちだ。
 国内で新たに開業が予定されているホテルタイプは、宿泊主体型がほとんどを占める。18年の訪日外国人観光客数は、初めて3000万人を超えた。将来、もし、この伸びが鈍化または減少したとしよう。ホテルが安定した収益を確保しようとすれば、単なる宿泊施設ではなく、その土地にしかない魅力を発信する情報拠点、交流の場としての役割を受け持つ必要があるのではないか。
 それが、リピーターの獲得につながるだけでなく、地域で暮らす人々にとっても「地元のホテル」としてより身近に感じ、そして利用したくなる施設になるはずだ。