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「7月豪雨」から一年 新たな「脅威」に備えたい

2019/8/17 

先週の台風10号は西日本を中心に豪雨や暴風による爪痕を残し、お盆期間中の公共交通機関に大きな混乱を引き起こした。「平成30年7月豪雨」から1年余りが過ぎたが、死者行方不明者230人余り、住宅の全半壊2万棟以上となった平成最大の水害の記憶は今なお生々しい。近年、地球温暖化による異常気象で台風、豪雨などの災害が多発し、しかも激甚化しており、「平成30年7月豪雨」の教訓を生かした新たなリスクへの対応が喫緊の課題となっている。
 「平成30年7月豪雨」では台風と梅雨前線の停滞が相まって、西日本を中心に長期間にわたって大雨が降り続いた。このため土砂災害が広い範囲で同時多発的に発生し、中国・四国地方では多くの河川堤防が決壊、氾濫した。わが国の治水は、1時間当たり降雨量50_を標準としているが、「平成30年7月豪雨」では総降雨量が多くの地区で500_を超え、中には1000_を超える地区もあった。河川から溢れ出た洪水や流木を飲み込んだ土砂が構造物を破壊した映像を見ると、パワーアップした自然の猛威が、もはや脅威となっていることを実感せずにはいられない。
 「平成30年7月豪雨」では、愛媛県西予市野村町で野村ダムの放流による肱川はんらんによって流域に暮らす5人が亡くなった。事態を重く受け止めた国土交通省は、直ちに異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節と情報提供の充実について検討に着手し、18年12月に提言をまとめている。出水期を控えたこの6月には提言に基づいた新操作規則を定めている。ただ、実効性のある適切な運用のためには、同省だけでなく地域住民の理解と協力が不可欠だ。
 一方、51人もの犠牲者を出した岡山県倉敷市真備町の浸水箇所は、市街化区域だったというが、過去の被災経験から浸水の可能性がある地区の用途を制限し、人的被害を抑えた自治体もあると聞く。土地には住民の利害や事情など複雑な要素が絡み合ってくるとはいえ、災害リスクがこれまでとは比較できないほど高まりつつある今、土地利用やまちづくりは、何よりも「人命第一」に重点になされなければならない。
 氾濫や土砂災害などの「外水」だけでなく、都市部では近年、局地的豪雨の「内水」による災害も顕在化している。急な増水に伴って下水道が排水処理能力オーバーとなってしまい、短時間で行き場をなくした雨水が街に溢れ出す。下水道の河川放流も都市部特有の水害だ。わが国の下水道で分流式の歴史はまだ浅く、先行した都市ほど合流式の比率が高い。東京都で8割、大阪府では9割を超えており、大雨で処理しきれなくなった雨水は汚水と一緒に河川に放流される。環境に与える影響は深刻で、一時貯留施設や浸透施設の設置や分流式への改善などの対策はまだ緒についたばかりだ。
 1901年と1977年を起点とする各30年間の降雨を比較すると、200_以上の日数は1・4倍に増え、雨の降り方が明らかに変わっている。地域性に加え、都市部と周辺部でも治水に対する課題は異なり、対策は複雑になっている。水害対策は間違いなく新たな局面に突入している。