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「過労死白書」と建設経営 実践したいメンタルヘルス対策

2019/10/26 

政府が国会に報告した今年の「過労死等防止対策白書」に衝撃を受けた建設業経営者と、安全衛生担当者は少なくないだろう。今回の白書には2018年7月に改定された過労死等防止対策大綱で重点業種に追加された建設業についての調査分析結果が記載され、現場監督の精神障害事案の実に約半数が自殺、技能労働者の精神障害事案の発症に関係したストレス要因の半数以上が、労働災害による負傷などの労働災害関連だったことが明らかとなった。
 重点業種の調査・分析は、10年1月〜15年3月までに労働災害に認定された脳、心臓疾患、精神障害事案を対象とした。
 新しい大綱は、労働時間が週60時間以上の労働者の割合を20年までに全体の5%以下にするとした目標を掲げているが、18年の全業種平均が6・9%だったのに対し、建設業は9・9%。建設業を職種別では「現場監督」が16・2%、「技術者」が7・1%、現場で作業する「技能労働者」は3・5%だった。
 特に調査対象期間中、30件の自殺事案が発生している現場監督の場合、発症に関係したと考えられるストレス要因は長時間労働が19件、2週間の連続勤務が7件、極度の長時間労働が5件―などとなっており、長時間労働に関連する危険因子の多いことが、調査結果から浮き彫りになった。
 業務量の変化や上司とのトラブル、仕事のミス、顧客からのクレームなども現場監督のストレス要因となっており、「職場の人間関係」「賃金水準の低さ」を挙げた者が多かった技能労働者とは、労働災害の危険因子にかなりの違いがある。
 労働安全衛生法(安衛法)は、その第15条で特定元方事業者(請負契約のうち、最も先次の請負契約における注文者)は、労働災害を防止するため一定規模以上の建設現場では「統括安全衛生責任者」を選任すると規定。その上で、同法第30条第1項では特定元方事業者が講じるべき安全衛生教育に対する指導・援助などの事項を定めている。さらに同法第31条には特定事業を自らが行う注文者の責任として、労働災害を防止するために取るべき安全管理措置を規定している。
 ことほどさように建設業の安全衛生には、元請け(特定元方事業者)主導の安衛法に基づく強固な統括管理体制が敷かれている。「工程管理」「原価管理」「品質管理」に加え、統括管理体制の下での「安全管理」…現場監督は本当に激務。長時間労働や過重労働に陥りやすいということは十分うなずける。
 過重労働に起因する労働災害であったことが認定された場合、事業者には労働基準法の災害補償責任のみならず、民法上の労働者に対する使用者責任、債務不履行責任、不法行為責任や安全配慮義務違反が問われ、賠償が課されないとも限らない。
 建設業にとっても過重労働などに起因する労働災害の発生は、もはや「対岸の火事」などではない。建設業の事業者、特に中小事業者は、安全衛生の総括管理体制に安住することなく、メンタルヘルス対策を“自分事として”実践することで、ともに働く仲間の生命と健康を守り、自社の経営リスクをも回避・低減したい。