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マンションと都市防災 大切な命と資産を守ろう

2019/12/2 

国土交通省と経済産業省は11月27日、「建築物における電気設備のあり方に関する検討会」の初会合を開いた。台風19号による豪雨で川崎市にある高層マンションの電気設備が浸水し、停電・断水などの被害が出た事態を重くみた。マンションやオフィスビルを対象にガイドラインをまとめ、デベロッパーと建設企業、マンションの管理組合へも周知する。
 東日本大震災以降、地震と津波への対策の重要性は強く認識されるようになった。揺れに強い躯体を建てるだけでなく、浸水への備えとして、発電機を上層階に設置したり、地下の入り口に止水板を設置したりするなどの対策が進んでいる。
 一方、開発事業主にとっては、防災・減災対策はコストに直結する。制約が厳しい施工条件とどう折り合いを付けるのか、という課題もある。
 不動産業界団体のトップはそのジレンマを「コストと災害のリスクをてんびんにかけている」と表現する。ビジネスである以上、利益の追求と社会貢献のバランスを取るのは当然だ。ただ、災害によって住民の生命、財産が奪われるようなことがあれば、想定外だった≠ナは済まされない。
 首都圏の新築マンション販売には「いまのところ台風の影響はみられない」としながらも、「激しく水害を受けたエリアに関しては、売れ行きに差がつくことが考えられる」と憂色を隠さない。
 対策が必要なのは新築だけではない。築年が古いマンションは、異常気象に起因する経済的損失のリスクが顕在化していない時代に建設された物件が多い。しかし、これからは、自然災害へのリスク対応力や、被災した履歴が、マンションの資産価値に影響を与える恐れがある。たとえコストがかかっても、防災・減災対策を徹底した物件だということが、付加価値になり得る。
 資産価値を意識することは、マンションの長寿命化や住み替えを促すことにもつながる。結果的に住宅ストックの再生にも貢献するに違いない。
 既存物件には、ハード面での防災対策が求められることになりそうだ。受変電設備一つをとっても、地下に設置されているものを上層階に移すことは難しい。多くのマンションは、大規模修繕の機会などを捉えて、何らかの対策を取らざるを得なくなるだろう。
 区分所有者の中には「起こるか分からない災害への備えは無駄ではないか」という考えを持つ人もいるかもしれない。2018年の台風24号では、強風で巻き上げられた海水が内陸の埼玉県にまで届き、高層マンションの外壁が塩害にさらされるという想定外≠フ災害も発生した。防災の視点からマンションを管理する重要性を管理組合に啓発することも、デベロッパーや管理会社の役割だ。
 今回の台風は、激甚化する自然災害が不動産にとっての脅威であり、都市部であっても人ごとではない、ということを、多くの人が思い知らされた災害だった。私たちの命と暮らしに密接に関わるマンションの防災について、受け身にならずに自分ごととして捉える必要がある。都市防災への関心が高まってるいまこそ、大切な命と資産を守るための検討、そして対策を急ぎたい。