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建滴 長期・安定的な太陽光発電

2020/11/2 東京版 掲載記事より

再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入されて以降、太陽光発電事業を中心として再エネの導入量は大幅に増大した。その一方で、新規事業者が再エネ事業に大量に参入したこともあり、法令・条例の違反、景観や環境を巡る地域住民とのトラブル、災害時の安全対策の不備といった課題が噴出している。政府は、固定価格による買い取りからの脱却を軸としたFIT制度の”抜本見直し”を2020年度末に予定しており、その先には賦課金に頼らない再エネ事業の自立を見据えている。事業者のコスト意識の高まりが安全対策や地域との対話の軽視につながることのないよう、国・自治体が一体となり、事業の信頼性を担保する仕組みを構築する必要がある。
 FIT制度の創設以降、太陽光発電の累積導入量は出力ベースで約5000万`h以上、件数ベースで200万件を超えた。急速な普及に比例するように、不適切な発電設備の設置、事業運営の事例も増加している。資源エネルギー庁が不適切案件に関する情報提供フォームを整備したところ、16年から今年9月までに、地方自治体や地域住民などから合計574件もの通報が寄せられた。そのうち538件と大半を占めたのは、比較的小規模で居住エリアとの距離も近い太陽光発電だ。地元との対話不足やフェンス・標識などの設置義務違反に加えて、設備の不適切な廃棄、強度不足や不安全な施工を指摘する声が多かったという。
 風水害の頻発化・激甚化が進む中で、不適切な施工は太陽光発電パネルの飛散や浸水による感電事故、斜面からの土砂流出につながりかねない。また、発電パネルには鉛などの有害物質が含まれているものもあり、不法投棄は環境保護の観点からも見過ごせない。こうした問題が改善されなければ、太陽光発電が社会の信頼を得ることは不可能だ。
 国も、50`h未満の太陽光発電設備を事故報告の徴収対象に追加したり、発電パネルの廃棄費用の積立制度を創設するなどの対策を講じてはいるが、急速な再エネ事業の普及に対して後手に回っている感は否めない。そもそも、法令で設置を義務化しているフェンスは約5%、事業者の連絡先を示す標識は約4割もの未設置事例が見つかっている。法令に基づく規制に加え、その実効性を担保する施策も欠かせない。
 FITの開始以降、自治体では地域内のトラブルに関する膨大な事例が蓄積されてきた。自治研究機構によると、発電設備の設置規制など再エネ事業に関連した条例は14年以降に急増しており、制定済みの自治体は既に100を超えている。
 地域の実情に応じた独自の取り組みを進める自治体もある。例えば浜松市は、市内の太陽光発電設備の設置状況を独自に調査し、市と再エネ事業者、施工業者などで構成する地域協議会を通じて長期的な維持管理体制を構築している。
 国はこうした取り組み事例を収集・分析し、特に住民の安全に関わる問題については先手を打って立法措置などの対策を講じるべきだ。同時に、再エネ事業者に関する公表情報を拡充するなど、自治体独自の取り組みを促す環境整備も進めてほしい。こうした取り組みの一つひとつが、社会を支えるエネルギーインフラとして太陽光発電の信頼性を高めることにつながるはずだ。