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建設経済の最新分析H公共工事の書類簡素化 デジタル化で生産性向上

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 建設業界では、慢性的な担い手不足に加え、さらに2024年問題が迫ってきている。建設工事全般について、処遇向上による担い手の確保とあわせて、生産性を向上させていく試みが欠かせない。
 国土交通省地方整備局発注工事では、工事現場間で工事書類にばらつきがあったりその量が膨大であったため、現場の負担となっており書類を簡素化すべきとの要望を受け、1988年から工事書類の整備や見直しが行われ、2008年に土木工事書類作成マニュアルが策定された。16年には、マニュアルを基に工事関係書類スリム化(簡素化)点検を実施し、土木工事電子書類スリム化ガイドが策定されて、21年にこのガイドが改定されて以降、すべての書類は原則電子化されることとなった。
 地方公共団体における公共工事での書類簡素化・電子化等の取り組み状況を調査するため、47都道府県と20政令指定市の計67地方公共団体を対象にアンケートを行った。
 67の都道府県・政令指定市では、約9割が書類簡素化に取り組んでいるとしつつも、国土交通省のようにスリム化のマニュアルを作成している都道府県などは半数以下であった。工事情報システムを原則実施としている都道府県などは半数以下であり、遠隔臨場を原則実施としている都道府県などは2割以下であった=図参照。
 これらのアンケートは政令指定都市以上を対象としたものだが、受発注者への取材を重ねると、小規模な市町村になればなるほど、書類簡素化・デジタル化の取り組みに消極的または意欲があっても人手・予算の面から進んでいない状況が感じられた。
 これらを踏まえて、公共工事の各手続における負担軽減による生産性の向上のための方策を考察すると、まず、一点目として、提出書類の削減・簡素化のために、提出書類・様式の統一を徹底することと工事竣工検査での書類の見直しが挙げられる。会計検査のためだけに提出させていないか、受注者に必要以上の書類を暗黙のうちに求めていないか再考してみるべきである。
 二点目として、工事情報共有システムについては、未だ実施率の低い都道府県で導入を徹底することと発注者間でのシステムの共通化が肝要である。発注者ごとに異なるシステムに合わせて、システムを使い分けている受注者がほとんどであり受注者の負担となっている。
 三点目として、遠隔臨場は時間短縮や効率アップにより生産性向上につながるが、未だ浸透しているとは言い難い。まずは発注者や建設業協会などを中心に勉強会を行い、周知を進めていくことが必要である。(建設経済研究所 元研究員 江下真央)