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賃上げのリアル@悩む地域建設業

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 「今のままでは、賃上げを続けていくのは厳しい」。ある地域建設業の団体トップが吐露した言葉だ。政府が持続的な賃上げを産業界に要請する中、大手ゼネコンの昨年の賃上げ率は過去10年間で最大となった。一方、中小建設業の経営者の悩みは深い。資機材価格の高止まりで会社の利益は削られているが、賃上げをしなければ新たな人材確保がますます難しくなる。地域に根差す企業を次代につなぐための道筋を、多くの経営者が模索している。
 中小企業も賃金を引き上げていないわけではない。厚生労働省の調査によると、30〜99人規模の建設業の2022年の平均賃金(月額)は前年と比べて3・5%、29人以下も3%アップしていた。ただし、その多くは利益の増大を受けた積極的な賃上げではないとされる。日本商工会議所の調査では、23年度に賃金を引き上げる予定の中小企業のうち、6割は業績が改善していない中で賃上げを決めたという。
 実際に賃金を引き上げた経営者の声を聞いた。都内で土木建築工事を手掛ける岩浪建設が賃上げを実施したきっかけは、来年4月から適用される残業時間の罰則付き上限規制に前倒しで対応したことだった。業務の進め方を見直し、働き方を大きく効率化できた。その一方で、残業代が減少。給与体系が“残業代ありき”だったこともあり、基本給と諸手当を引き上げることにした。
 とはいえ物価の上昇も続いており、特に民間工事では価格転嫁も難しい。同社の岩浪岳史社長は「あくまで防衛的な賃上げだ」と話す。それでも実施を決めたのは「賃金は暮らしに直結する。従業員の不安を払しょくしたい」という思いからだ。
 多くの中小企業が賃上げに踏み切る背景には、深刻な人手不足も影響している。帝国データバンクが1月に行った調査では、賃上げの理由は「労働力の定着・確保」が最多の71・9%を占めた。回答した高知県の土工・コンクリート工事業からは「臨時手当も考えたが、人員確保には目に見えるベースアップが重要」との声が上がった。
 地方では、主に自治体の土木工事を受注している建設業も多い。記事冒頭の団体トップは「物価は上がり続けているのに、自治体が設定する単価は遅れている。それでどうやって賃上げの原資を確保できるのか」と課題を指摘する。道路啓開や除雪といった地域の安全・安心に欠かせない業務を担っているが、同業からは「もうできない」という切実な声も寄せられているという。
 この団体トップは今、単価や業務の進め方の改善など、自治体への働き掛けを強めている。「地域の未来の礎を作るという思いで仕事をしている。そのためにも、言うべきことは言わなくては」