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賃上げのリアルB賃上げ、どうすれば

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 「思い切って賃上げをしたい。でも、どうやって」。そんな悩みを抱えた経営者が、きょうも社会保険労務士事務所の戸をたたく。中小建設業が顧客の中心だという社会保険労務士の加藤大輔氏に、大手ゼネコンとは違う「賃上げ」の実践例を聞いた。

 ―現在、建設業は賃上げをできているのか。
 「経営者からすると、資機材価格が上昇しているので、本音を言えば賃上げしにくい時期のはず。しかし、物価上昇は従業員の生活にも重くのしかかっている。そのまま放置すれば従業員の離職率上昇やモチベーションの低下、新規採用の停滞にもつながりかねない」
 「特に賃金は採用面で一定の役割を果たす。他の業界と人材を取り合うとき、中小建設業は休日確保の面でどうしても不利になりがちだ。もちろん、働き方改革にも取り組んでいるが、そこで勝てない部分を補うため、賃上げに踏み切っている面がある」
 「ただ、気持ちよく賃上げできるほどには、発注者や元請けから十分な労務費を受け取れていないのではないか。特に民間工事は厳しいと聞いている」
 ―賃上げにはどのようなやり方があるのか。
 「世間でよく聞かれる『ベア』は、年齢や能力に応じた賃金を示す賃金表そのものを書き換え、全従業員の賃金水準を一律に引き上げるものだ。一方、賃金表のないことも多い中小零細企業は、『誰の賃金をいくら上げるか』を決めないといけない。基本給か、それとも手当を引き上げるのかも考えどころだ」
 「昨年以降はインフレ手当の支給に関する相談が増えた。従業員の生活が苦しい間、それを下支えするような仕組みだ。賃金水準を恒久的に引き上げるベアと違って『〇年〇月まで』という風に期間を定めることができる分、経営者としては踏み込みやすいのだろう」
 ―採用にプラスになるような賃上げとは。
 「初任給アップなど、若い世代の賃金水準を引き上げる例もある。実は、大手と中小とで初任給の金額の差は小さくなりやすい。採用に直結するので、賃上げの圧力が中小に強くかかるためだ」
 「新卒や若手の賃金を上げると、他の世代とのバランスも考えなくてはならない。そこで、資格や能力の評価とリンクした給与体系の相談を受けることも増えてきた」
 ―“どんぶり勘定”からの転換が求められそうだ。
 「中小では、社長の感覚で賃金水準が決まる会社が今も少なくない。経済が右肩上がりの時代であれば、給与体系がブラックボックスでも従業員は気にしなかっただろう。しかし、今は違う。若手にはどんなキャリアを積めば、どれだけの賃金がもらえるかという道筋を見たい人が増えている」
 「経営者としては賃上げと生産性向上はセットで考えたいと思っている。それを従業員にも意識付けし、一緒になって取り組めるような体制づくりがより重要となるだろう」
 「今、改めて自社の賃金がどうあるべきか、向き合う時代が来ている。賃上げを実際にするかしないかは経営判断だが、まず一度は検討するべきではないか」