建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

賃上げのリアルC「選ばれる会社」になる

いいね ツイート
0

 「健康手当」に「禁煙手当」、「献血手当」、そして「公共料金手当」―ユニークな手当制度を取り入れている建設会社がある。鉄道連立工事を手掛ける都内の土木基礎工事会社だ。定期昇給やベースアップに加えて、4月にこれらの手当を新設・拡充したことで、人にもよるが賃上げ率は10%超も視野に入るという。この会社は今、中途採用に力を入れている。「選ばれる会社」になるための、言わば“攻め”の賃上げだ。
 「正直に言って、固定費がどんどん積み上がっていく(定期昇給、ベアのような)仕組みは体力を奪われる」とこの経営者は明かす。それでも直近の数年間で給与体系を整備し、定昇とベアを続けてきた。その上で、無理なく賃金水準を引き上げるのに功を奏したのが各種手当の活用だ。
■手当を最大4万円増額
 この4月には禁煙者・非喫煙者向けの禁煙手当、体脂肪率が一定以下だと支給する健康手当、献血している人への手当の支給額をアップ。ガスや電気料金の急上昇を受けて、1年間の期限付で公共料金手当も導入した。これら各種手当の増額分だけでも、積み上げると4万円になるという。
 これは、日本建設業連合会など主要な建設業団体と国土交通省が申し合わせた、「技能者賃金をおおむね5%以上引き上げる」という目標を大きく超える水準になる。一部の手当に期限を設けるなど、柔軟な仕組みを取り入れることで財務面での負担感を軽減した。
 この会社は屋外作業が中心の工種で、夜間施工も多い。「夏は暑いし、冬は寒い。そこで働く人にはきちんと報いないといけない」というのが同社の経営者の思いだ。夜勤の多い中堅クラスの社員なら、年収は700万円の水準に届く。
 この待遇でも、新卒採用では苦戦を強いられているという。このため中途採用に力を入れ、この2年間で20代を含む6人の採用に成功。建設業の他の職種からの応募が多く、賃金水準はアピールポイントの一つとなっている。
 賃上げには、元請けの労務費という原資が要る。この会社が入る現場では、9割以上で元請けが見積りを尊重して労務費を引き上げてくれた。同社の経営者は言う。「人手不足もあって、ゼネコンと専門工事会社の立場は対等になってきている」
■人への投資が競争力に
 現場ではロボット活用も模索されているが、「最後の最後で手作業が必要になる」とこの経営者は指摘する。目指すのは、「技術力で他社と差別化して、それに見合った対価をもらい続けられる会社になる」こと。従業員の処遇改善に対する投資は、設備投資と同じく自社の競争力に直結するというのが実感だ。
 健康管理や禁煙に対する手当が充実しているのは、従業員が健康に働けることが、会社にとって極めて重要だからでもある。ベテランが一人、体調を崩せば現場は止まりかねない。「働く人を増やせなくとも、まず減らさないこと」に力点を置いた発想だ。
 どのような賃金体系を構築するかは、永遠の難題と言える。この経営者が重視するのは、従業員全体の生活を底上げする平等性と、個々人の技術・努力による成功報酬とのバランスだ。「うちの仕事はチームプレイ。完全な平等も、極端な個人評価も人間関係をおかしくしてしまう」と考える。「社長の言うことを黙って聞かせるような時代ではない」からこそ、従業員も納得する賃金の在り方を常に考え続ける。