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賃上げのリアルD人手不足倒産を避けるには

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 「地方の零細な土木工事会社は、もたなくなる」。建設業を持続可能なものとするための法制度を議論する国土交通省の基本問題小委員会で、全国建設業協会前副会長の荒木雷太氏(岡山県建設業協会会長)はこう発言した。背景にあるのは、深刻さを増す人手不足だ。荒木氏は委員会の席上で、「賃金引き上げの新たなスキームを作り、建設業界を盛り上げよう」と訴えた。担い手を呼び込むため、何ができるのか。
 荒木氏の訴えを裏付けるようなレポートを、信用調査会社の帝国データバンクが7月にまとめた。それによると、1〜6月に建設業で発生した人手不足による倒産が、前年同期と比べて3倍に急増した。2024年4月から時間外労働の罰則付き上限規制が適用され、状況はさらに厳しくなると見られる。
 専門工事会社もこの現状を重く受け止めている。基本問題小委に出席した建設産業専門団体連合会会長の岩田正吾氏は「建設技能者の処遇は(年間で)、他の産業と比較すると賃金が55万円低く、13日多く働いている」との調査結果を紹介した。外国人労働者の賃金も「他の先進諸国と比べて低い」と指摘。若者、外国人から選ばれる産業となるため「賃金を含めた処遇をせめて全産業の平均まで引き上げなければならない」と強調した。
 人手不足にもかかわらず、賃金水準の改善に遅れが見られるのはなぜか。要因の一つに挙がるのが、業界に根強く残る低価格競争だ。国交省は特に技能者について、労務費と下請け経費を合算した「定用単価」をベースに契約金額が決まる価格決定構造を問題視。元請けから1次・2次下請けへと請負契約が重層的になるにつれ、労務費があいまいな見積もりになり、結果として適正な賃金の原資を確保できなくなる。特に、資材価格の急激な高騰局面で不当廉売が起きやすく、処遇改善に積極的に取り組む企業ほど価格競争で不利になってしまうと見ている。
 そこで国交省は、労務費や法定福利費を削るような低価格競争を制限し、設計労務単価相当の労務費が専門工事会社へ行き渡るような仕組みを検討している。具体的な流れはこうだ。設計労務単価を基に「標準労務費」を算出し、中央建設業審議会が勧告。標準労務費を一定程度、下回る取引については、許可行政庁が「注意」や「勧告」を実施できるようにする。標準労務費を踏まえた労務費を元請けや上位下請けから支払われた専門工事会社には、建設キャリアアップシステム(CCUS)のレベルに応じた賃金支払いを表明するよう促す=イメージ図。
 もちろん、元請けにも余裕はない。資材価の高騰が人件費、労務費を圧迫する事情は元下を問わない。総価請負により物価上昇などのリスクを一方的に受注者が負う構図が見られる中、国交省は請負契約の在り方そのものも議論のテーマの一つに据えようとしている。
 インフレの状況下では、賃金が上がらなければ実質的な賃下げになってしまう。長く続いたデフレが終わりを迎えた今、働く人の生活を支える「賃金」をどう考えるべきか、経営者は改めて問われている。産業としての魅力を高め、担い手を確保するため、避けては通れない難題だ。