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未来へトライ!!スポーツ施設のこれから@スポーツ施設は何のためにつくるべきか

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 陸上トラックの中に球技用芝生グラウンドがある数万人収容可能なスタジアム――日本ではよくみかけるスポーツ施設だが、いったい何のためにつくられた施設なのだろうか。座席が数万もあるならスポーツを観ることが目的であろう。しかしトラックを隔てて遠目に観る球技は迫力に欠ける。おそらくJリーグクラブで陸上トラックのあるスタジアムで試合をしたいと考えるクラブは皆無であろう。
 さらにはトラック内に球技グラウンドがあるため走り幅跳びなどのレーンがトラックの外に設置されてしまうことにより、スタンドからはトラックでの短距離走の風や息づかいを感じることもできない。実は国立競技場をはじめとする我が国のスタジアムのほとんどは、数万席がありながらも球技も陸上競技も観にくい施設となってしまっているのが実情だ。
 スポーツをするための施設なのだからそれでも良いと思われるかもしれないが、することが目的であれば数万席の座席は不要であるはずだ。“観る”スポーツのための施設と、“する”スポーツのための施設では全く発想が異なるにもかかわらず、我が国では大半の施設がオリンピックや国体の開催が目的になってしまっており、それら一過性のイベント後の本来の目的が明確になっていないまま施設がつくられてしまっている。
 世界的にみても数万人の観客席が埋まる競技はフットボールしかない。であればその規模の“観る”ためのスタジアムは球技専用にしなければ合理的ではない。陸上競技においては2022年世界陸上が開催されたオレゴン大学のスタジアムのように1万人規模でトラックまでスタンドが迫り出ている陸上競技を観るための専用スタジアムをつくるべきであろう。
 もちろん市民や子供たちがスポーツを“する”ための施設をつくることは必要である。“する”ことが目的ならば、数万の座席は不要でありグラウンドやコートの面数を増やしたほうがその目的にかなうはずである。
 “観る”ための施設であれば、その競技を最高に楽しく観られるようにすることで収益性が高まり税金の負担も減ることであろう。“する”ための施設であれば公共性の観点からしっかり税金を投入してつくるべきである。
 日本では観る・するの目的を明確にしないまま施設がつくられた結果として、中途半端な使い勝手の悪い施設ができてしまっている。バスケットボールやラグビーなど観るスポーツが多様化している現代においては、一過性のイベントを目的とするのではなく、スポーツを観るためなのか、するためなのか目的を明確にし、一貫性のある発想でスポーツ施設をつくるべきであろう。

※写真はオレゴン大学陸上スタジアムのヘイワード・フィールド。トラック近くまでスタンドが迫り出ている。2022年には世界陸上が開催された(提供/Alamyアフロ)

執筆者プロフィール

静岡ブルーレヴズ代表取締役社長 山谷拓志

山谷拓志
静岡ブルーレヴズ代表取締役社長
慶応義塾大学を卒業後、リクルートを経て2007年に国内のプロバスケットボールチームである宇都宮ブレックスを創設。3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり、3期連続で黒字達成。14年茨城ロボッツ社長就任。経営を再建し21年B1リーグ昇格。21年より静岡ブルーレヴズ代表取締役社長。