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若手記者が聴く〜社長、あなたはなぜ建設業を?B大栄工業(静岡県焼津市)宮本浩代表取締役

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 静岡県焼津市で防水工事を展開する大栄工業の宮本浩社長。同市内には防水、防湿・防熱工事を専門とする同業者はおらず、公共・民間を問わず、仕事の相談が舞い込む。地域密着の仕事に奔走する毎日だが、出身は長崎県にある六島という小さな島で、前職はアパレルの小売業。宮本社長はなぜ、静岡の建設業で働くことを決めたのか―。
 大学進学を機に上京。経営を学び、「多角的にまちをつくる」というコンセプトに共鳴して「マイカル」(2001年経営破綻。現在はイオンに経営統合)に入社した。服飾雑貨を専門とし、商品の仕入れ・販売から店舗独自の買い付けなども担当した。
 仕事を覚え、責任ある仕事も任されるようになったが、分岐点となったのは職場で出会った妻との結婚。義父となった土屋友親氏が、大栄工業の創業者だった。
 里帰り出産した妻に会うために横浜から静岡まで通う日々。富士山を望む景色と穏やかな気候にひかれ、次第に「この土地で暮らし、働きたい」という思いが強くなった。まったく畑違いの仕事だが「根拠のない『何とかなる』という自信」を胸に、1999年に建設業界へ飛び込んだ。
 入社後は工事部に所属。先輩社員や職人から現場の仕事を学んだ。その後、経理の仕事にも携わり、2007年に先代から事業を承継。会社の負債は1億円以上あったが、「自分がやるしかないと腹をくくった」という。ところが、リーマンショックにより、翌年から2期連続で、大幅赤字を計上。当時を「あの時のつらさは絶対に忘れない」と振り返る。
 厳しい状況の中で支えとなったのは、あらゆる業種の企業家が所属する「中小企業家同友会」。経営者の仲間と共に学びながら、「誠実」「信用」「感謝」を軸に据え、経営理念をつくりあげた。「会社の核となる『理念』と『指針』が確立できたことで、社員との共通認識が生まれ、経験の少なさから先輩社員に感じていた引け目も払拭(ふっしょく)できた」という。社員とコミュニケーションが増える中で、それまで社内に漂っていた「営業しなくても仕事はくるもの」という認識も改善。「これまでの施工データを基に元請けを訪ねる営業スタイル」を確立した。今は黒字経営が続いている。
 建設業の仕事に携わって約24年。やりがいは、やはり「完成した建物に対して貢献することができたという喜びや、お客さんからの『ありがとう』という言葉」。感謝の言葉を聞くたびに、「この仕事が地域になくてはならないものだと実感する」と、24年前の決断に、今は確かな自信を持っている。(静岡支社=荒井理紗)