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実践!コスト競争力アップ 第12回(最終回) 社内原価の活用(まとめ)

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 これまで、社内原価の活用を積算、発注、実行予算管理という三つの業務で確認してきました。
 簡単にまとめると、社内原価を積算に活用すると、積算価格の根拠が明確になり、他社との競争にどこまで付き合うべきなのか判断できます。言い方を変えれば、自分達がどこまで価格を下げて受注してよいのかが分かることで、ギリギリのラインで応札でき、ライバルとの熾烈(しれつ)な競争に対応できます。
また、発注や実行予算管理に活用することで、仕入先に対する価格交渉力が組織として上がってくるということになります。

 さて、ここで忘れてはならないことがあります。それは、ライバル会社でも同じように取り組んでくるということです。早々に仕組みを構築し、すでに日常業務の中で社内原価が当然のように活用されているライバル会社もあるかもしれません。

 「日常業務の中で当然のように社内原価が活用されている」という点は大きなポイントだと思います。よくお聞きする失敗事例として、「社内原価データは細かい工種、建材までフルパワーで作ったが、活用できていない」ということがあります。どうしても、皆が忙しいし、特に中小建設業では、あらゆる工種、細かすぎる資材のデータを、日常業務の中で更新していくことは現実的ではありません。A社の事例でお話したように、更新、活用、また更新というように、自社なりの継続する仕組み、やり方が必要です。

 また今後は、仕入先を巻き込んで、社内原価の構築、活用を考えていく視点が必要だと思います。結局、社内だけで、社内原価を構築しても、一つ1つが仕入先との交渉になり、手間がかかります。そうではなくて、仕入先にも社内原価という考え方の大枠を理解してもらい、共有していくという発想が求められると思います。

 具体的には、仕入先の見積りが、社内原価での基準を上回ってしまう場合には、差異を納得のいくまで説明してもらい、単価の問題なのか、数量や工数の問題なのか、繁忙期だからなのか等、膝を突き合わせて議論していく関係づくりが、まずは必要でしょう。
 そして、根拠のない買いたたきはしないという姿勢を、自社から見せることも必要です。社内原価という基準があることで、従来なら仕入先と何度も見積りのやり取りを行っていた手間、交渉の時間が省けるなど、仕入先にとっての具体的なメリットも示せればなお良いと思います。自社の利益だけを考えるのでなく、仕入先も含めて生き残っていくための方針、つまり、元請である自社が仕事を取れることで、下請である仕入先も生き残れるということを、しっかり示していく必要があります。

 本メルマガでは、社内原価の活用によって、コスト競争力をつけようというテーマで解説してきました。重要なことは、社内原価を活用してコストそのものを下げるという標準原価的な取り組みに加えて、従業員や仕入先の手間を省き、能力向上(施工図の作成、段取り改善、提案等)に時間を使ってもらい、また、やる気を持って仕事をしてもらうことだと思います。

 本メルマガが、ツールとしての社内原価を上手に活用していくための一助になれば幸いです。

執筆者プロフィール

みどり合同経営 コンサルティング部建設業経営支援研究グループ