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法律が作った土壌汚染 第1回 土壌汚染対策法の解説と改正法の功罪

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 改正土壌汚染対策法が施行されて約半年が経ちました。改正された法律に基づく調査・対策事例が積み上がってきていることと思います。土壌汚染対策法は平成14年5月に制定され、平成15年2月15日に施行された法律です。法の成立時に国会の付帯決議として5年経ったら法の見直し行うことが求められ、今回の改正につながった訳です。
 土壌汚染調査は全国で15,208件行われていますが(平成20年度環境省調査1))、そのうち法に基づく調査が2%、地方自治体の条例・要綱などに基づく調査が11%、その他自主的に行われている調査が89%となっており、法に基づく調査はごく僅かです。このことが土壌汚染対策法がザル法と揶揄され、今回の法改正では適用範囲の拡大と規制の強化につながりました。
 さて、コラムの表題は「法律が作った土壌汚染」とやや過激です。土壌汚染の規制基準は有害物質の性質や、汚染リスクを考慮して決められたものですが、他の法令(例えば食品関連)や諸外国の対応などを考えると本当にいいのだろうか、ひょっとすると法規制は社会資本への過剰な投資を引き起こしているのではないかというのが私の考えです。表題は読み手の気を引いて皆さんにも考えて頂きたいということと、私の気持ちも(考えが)少し入った表現です。なお、一律に基準が厳しすぎるというつもりではありません。土壌汚染により健康被害を受けてこられた多くの被害者がいることも事実です。土壌環境問題は慎重に対応していく必要があります。
 このコラムを読まれる方は、建築土木関係の方が中心ではないかと思います。環境問題や土壌汚染に直接関わらない方もいらっしゃると思います。コラムは約半年間続けるつもりでおりますが、前半では土壌汚染対策法をできるだけ平易に解説し、後半で改正法の功罪についての私の意見を書いていきたいと思っています。
 連載中に皆様からのご意見や感想をいただければ幸いです。各回の原稿はその都度書いていくので、頂いた意見を反映させて頂くこともできるかと思います。よろしくお願いいたします。

土壌汚染の歴史と土壌汚染対策法成立までの経緯
 土壌汚染の歴史は古く、日本の公害の原点といわれる足尾鉱毒事件にまでさかのぼります。明治10年頃、栃木県の足尾銅山に起因する鉱毒水が渡良瀬川流域に流れ込み、農用地の作物被害を引き起こしたものです。土壌汚染が大きな社会問題と代表的な地域として富山県神通川流域があります。これは神岡鉱山亜鉛精錬所が鉱毒水神通川に流れ込み、この水を飲んだり米に濃縮したカドミウムを摂取することでイタイイタイ病とよばれる疾病を発生させました。そのほか宮崎県の登呂久鉱山による砒素汚染も有名です。
 土壌汚染ばかりではなく、水俣病や四日市公害訴訟などの社会問題化を受け、昭和45年(1975年)に開催されたいわゆる公害国会で水質汚濁防止法など他の公害対策関連法令とともに「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」が制定されました。同法で規制を受けた特定有害物質はカドミウム及びその化合物、銅及びその化合物、砒素及びその化合物の3物質です。
 法の対象となった農用地について汚染原因別に見ると、鉱山や精錬所関係が面積比で約90%となっており、残りの10%が一般の工場などです。鉱山関係の汚染は市街地の汚染に比べると規模や汚染濃度も高い場合が多く、現在でも山間部の堆積場に鉱滓として埋められていたり、湖の底に堆積していたりする場合もあります。
 市街地の土壌汚染が顕在化するのは昭和50年(1975年)に東京都江東区で六価クロム鉱滓埋立て問題が社会問題となったあたりからです。次に米国のシリコンバレーでトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素系溶剤による地下水汚染が報告され、昭和57年に環境庁が全国規模の地下水調査を始め、その後の調査も含めて日本でも全国的に地下水汚染が進行していることが明らかになりました。その後、環境庁は市街地における土壌汚染対策の指針として「市街地土壌汚染に係わる暫定対策指針」を昭和61年(1986年)に告示しました。
 さらに平成3年(1991年)には「土壌の汚染に係る環境基準」が告示されます。環境基準に加え「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針運用基準」など技術指針が改定(平成11年(1999年))され、市街地の土壌汚染調査が進むにつれ土壌汚染の発見件数が増加しました。これらの多くは過去に汚染された状況が調査を行うことで明らかになってきたものが大部分を占めます。このような経過を経たのち平成14年(2002年)に土壌汚染対策法が公布され翌年2月より施行されました。

1)平成20年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果
(平成22年2月環境省)

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員 メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp