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法律が作った土壌汚染 第7回 「検出されないこと」A

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 前回は有機りん、シアン、PCBについて、「検出されないこと」という記述の問題点を説明しました。土壌汚染対策法の関係で「検出されないこと」とされているのは、あとアルキル水銀と土壌ガス調査があります。今回は土壌ガス調査の「検出されないこと」についての話です。
 トリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物(法では第1種特定有害物質といいます。)によって土壌が汚染されると、深さ方向にしみ込んでいき、地盤中でその一部はガスとなり土粒子の間隙にそのガスがたまります。土壌ガス調査はこのガスを測定することで、土壌汚染の場所を絞り込もうとするものです。
 土壌ガスについては法の施行規則で「土壌ガス調査で対象物質が検出されたとき、汚染状態にある土地とみなす」としており、調査・分析方法が記載されている環境省の告示(平成15年環境省告示第16号)に定量下限値が0.1volppm以下(ベンゼンにあっては0.05volppm以下)と記述されており、指定調査機関は法律の定量下限値以下で検出されているのに報告書に書くことができません。この定量下限値を決めたことに対する技術的又は法的な解釈は全く説明されていません。何という傲慢な態度でしょう。
 私が危惧するのは、この様にデータの表現方法を法律で縛ることによりせっかく行った調査データがきちんと活かされない場合があるのではないかということです。土壌ガス調査の一番の目的は汚染物質が地盤にしみ込んでいった場所を探すこと、あるいは地盤中で汚染物質のもっとも濃度が高いところを探すことです。その際により細かいデータまであると汚染物質の拡散の状況もより把握することができるはずです。私は長年環境に係わる調査をやってきて、調査や分析のデータはできるだけ生の情報を大切にして情報を取得し、調査結果を評価することがとても大切なことだと感じています。法律が勝手に調査のデータを裾切りする権限があっていいのでしょうか。ともかく法律を作ったときに「検出されないこと」を決めたかったのでしょう。
 環境省の告示で決められているガス調査の分析は、ガスクロマトグラフという分析装置を使って行いますが、測定用の検出器は5種類の検出器があり、それぞれの検出器で物質毎の測定感度も変わってきます。もっともよく使われていると思われる2種類の検出器(光イオン化検出器と電気伝導度検出器)で標準ガスを分析したときの感度を比較したものを下表に示します。

 「土壌ガス分析の感度比較」
   物質名      比較
1,1-ジクロロエチレン   1.8
ジクロロメタン      2.0
シス-1,2-ジクロロエチレン 1.7
1,1,1-トリクロロエタン 3.5
四塩化炭素 4.1
ベンゼン 1.3
1,2-ジクロロエタン 1.9
トリクロロエチレン 2.2
1,3-ジクロロプロペン 1.0
1,1,2-トリクロロエタン 2.6
テトラクロロエチレン 2.2
(注:検出器PIDとELCDを併用した場合)

 この表で一番感度が悪い「シス,1,3-ジクロロプロペン」を1として、もっとも感度が高いものは四塩化炭素で4.1倍の感度です。法律では感度がいいはずのベンゼンは1.3倍でそれほど感度がいいとはいえないのです。水素炎イオン化検出器という検出器だともう少し感度があがるかもしれませんが、いずれにしても法律で分析方法を決めたときに説明がないので全くわかりませんし、法律の定量下限値は技術的には全く意味がない値です。
 土壌中のガスの濃度は天気によっても変わります。低気圧が来ると高くなるし、高気圧が来ると低くなります。雨の日は調査を行ってはならないことになっていますが、高気圧が来て晴れの日ほど汚染は見つかりにくくなるわけです。もっとも土壌や地下水のそのものの濃度を測っているわけではなく、土壌汚染の場所を絞り込もうとするための調査なので調査エリアを同じ日に分析するのならば気圧はあまり考えなくてもいいでしょう。この様なことを考えてみても法律で定量下限値を決めることは解せないのです。

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員 メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp