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法律が作った土壌汚染 「規制項目と基準値いついて」F

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【水銀】
 水銀、特に有機水銀が原因の水俣病は悲惨な公害病としてあまりにも有名です。水俣病の被害が顕在化しはじめたころ、日本の水田には酢酸フェニル水銀が稲のいもち病の特効薬として大量に散布されていまいした。水田への水銀散布は昭和30年代が中心で、最盛期は年間5千から7千トンも散布されています。日本の水田では現在でも通常の土地より水銀濃度が高いということです。
 昔は、病院でも消毒剤として昇汞水(ショウコウスイ:塩化第二水銀の水溶液)が大量に使われていました。子供の頃、怪我をしたら塗ってもらっていた赤チン(マーキュロクローム)も水銀の化合物です。病院跡地で土壌汚染調査を行う場合は汚染の恐れがある物質として水銀があげられます。
 身近なものでは、現在でも、蛍光灯には水銀が含まれています。使い終わった蛍光灯は割らないようにして分別ゴミで出さないといけませんね。また、最近では使用量が減りましたが、虫歯の治療にアマルガム(水銀と他の金属の合金)として用いられています。いまだに保険治療の対象であるし、古い虫歯の治療跡をお持ちの方で、アマルガムを口の中に詰めている方は相当いらっしゃると思われます。
 最近の話題として、和歌山県太地町の住民の毛髪中水銀濃度は、日本の平均値の約10倍と高いとの調査結果が報告されました。これは水銀が生物濃縮されているゴンドウクジラの肉などを食べる機会の多いことが原因とされています。
 総水銀のWHOのガイドライン値は0.001mg/Lで、土壌の溶出量基準(=地下水基準)はその1/2の0.0005mg/Lであり、より厳しく規制されています。過去の被害を受けての規制値と思いますが昭和30年代はご飯に相当水銀が紛れ込んでいたわけで、隔世の感がします。

【六価クロム】
 土壌中にクロムは70mg/kg程度含まれています。このクロムは通常の自然状態では三価のクロムであり、溶出量基準(0.05mg/L)を超過することはありません。六価クロムは水によく溶けます。もしも土壌中のクロムが全て六価クロムで全量溶出したとすると、溶出液を作る際は土壌1:水10の比で溶出させるのでその濃度は7mg/Lとなり、基準値の140倍となります。土壌中のクロムはこれだけ高いのに自然的原因で基準超過の土壌にはまずお目にかかりません。日本では房総半島の自然湧水で六価クロムが検出されたことが報告されている程度です。
 セメントの改良土でクロムが溶出するという問題が話題になりました。セメントは石灰と粘土を主な材料として高温で焼いて作ります。このとき粘土中の三価クロムが六価クロムに変化してしまいます。従ってセメント中には一定量の六価クロムが含まれます。土壌とセメント混ぜたあとにも六価クロムが残ってしまうというわけです。いろいろ試験してみるとアルカリ性で酸化的雰囲気が強いと六価クロムが残りやすいことがわかりました。確かにセメント改良土中では高アルカリの状態で六価クロムが存在する場合がありますが、改良地盤のすぐ外側ではアルカリが中和されて六価クロムも基準を超えないということがわかりました。地下水を汚染するおそれがないわけです。
 六価クロムは発がん性があるとか鼻に穴が開くとか言われて恐れられているわけですが、人に対する健康被害を受けている事例は、ほとんどクロムを取り扱う職業病としての被害です。土壌汚染で最初に問題になったのは昭和50年に江東区の化学工場が六価クロムを含む鉱さいを工場の周辺に大量に投棄していたことが明らかになった時です。この事件を受けて、廃棄物処分場が安定型、管理型、遮断型に分けられました。
 六価クロムの浄化には、不溶化という処理の仕方があります。これは六価クロムに還元剤を作用させて三価クロムにするものですが、土壌汚染対策法では、一応の対策(法の上では汚染の除去としています。)としては認めているものの完全な対策とは認めていません。すなわち不溶化によって区域指定は解除されません。理由は三価クロムがまた六価クロムに戻るかもしれないということになっています。六価クロムは地盤中で一旦、三価クロムとなると安定です。是非、不溶化による六価クロムの浄化を完全な浄化方法として認めていただきたいものと考えます。

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員  メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp