建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

法律が作った土壌汚染 「規制項目と基準値いついて」H

いいね ツイート
0

【揮発性有機化合物(第1種特定有害物質)】
 揮発性有機化合物は土壌汚染対策法では第1種特定有害物質と呼ばれ、トリクロロエチレンなど11項目が規制されていて、そのうちの10項目は有機塩素化合物です。有機塩素化合物は化学的に安定なものが多く、燃えにくく、そのため爆発の危険がなく安全な化学物質としてかってはもてはやされました。しかし、燃えにくいということは化学的に安定で分解しないということで、一旦環境中に放出されると今度は蓄積します。また、有機塩素化合物は、環境中で有害なものが多い(フロンやPCBも有機塩素化合物です)ということもわかってきました。揮発性の有機塩素化合物は、塩素が入っているため水よりも重く、土壌が汚染されると地中深くにしみこんで行きます。地下水の帯水層を突き抜けてその底にたまり、地下水を汚染し続けることになるのです。
 本年4月1日に水質汚濁防止法が改正されて地下水汚染の未然防止対策が盛り込まれました。土壌汚染を通じた地下水汚染を未然に防止する立場からの法改正といえます。有害物質を扱う地上の施設に接続している地下の配管などからの漏洩が確認されることが多く、漏洩の防止のための設備や漏洩があっても確認できる設備の改善が求められています。全ての有害物質が対象ですが、揮発性有機化合物については特に留意する必要があります。
 土壌汚染対策法で規制されている揮発性有機化合物のうちで、塩素の化合物ではないものがあります。ベンゼンです。ベンゼンは白血病のリスクを高めることで知られています。大きな化学工場でベンゼンを製品として製造する場合や原材料として使用する場合もありますが、土壌汚染の現場でベンゼンが問題になるケースで多いのは、ガソリンスタンドです。ガソリンの中にはベンゼンが1%以下ですが含まれており、ガソリンが漏洩すると溶出量基準(0.01mg/L)を超えて検出されることがあります。
 ところで私たちのベンゼンによる暴露のほとんど全てが大気経由によるものです。工場など固定発生源からのベンゼンもありますが自動車の未燃焼ガソリンによる放出で暴露しているのです。ガソリンスタンドでの給油中に蒸発するベンゼンも相当寄与しているのではないでしょうか。
 海辺の近くで地下水の飲用もないガソリンスタンド跡地でベンゼンによる土壌汚染が発覚し、浄化が思うようにはかどらず、もう5年以上も土地利用ができない場所があります。この事例と同じレベルのリスク対策を考えると、セルフのガソリンスタンドでは給油の際にガスマスクを義務づけるべきではないかとも考えます。

【農薬とPCB(第2種特定有害物質)】
 日本には常に400種類以上の農薬が登録され、農業の生産現場や園芸で使用されています。土壌汚染対策法で規制されている農薬は7種類です。有機リンは排水基準などで古くから規制されていましたが、チウラム、シマジン、チオベンカルブの3種類は河川水などの環境基準の大幅改正(平成5年)のときに新たに規制され、土壌環境基準にも取り入れられました。この時、400種類以上の農薬から何故この3物質だけを選んだのか、水質汚濁性の農薬であるなどと定性的な説明はありましたが、きちんとしたデータに基づいた説明などはされていないと思います。
 有機リンは4種類の農薬をまとめて扱っていますがこのうち3種類は約40年前に登録失効していることは前にお話しました。そのような農薬をわざと精度を落とした分析方法により全国の土壌汚染の現場で分析し続けなければいけない現状は理解できません。
 PCBは規制が始まったときは精緻な分析技術がなかったために、PCB全体を対象として基準値が決められていました。現在、PCBの毒性のほとんどはコプラナPCBといわれる成分であることがわかっています。これはダイオキシン類の成分としてとしても分析される化合物であり、法規制が技術の進歩についていかない状況だと考えます。ここはコプラナPCBとして独立した項目とするか、ダイオキシン類を土壌汚染対策法の仕組みに組み込む規制改革をするべきではないでしょうか。

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員  メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp