建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

建設トップランナーの挑戦 第2回 管野組(北海道遠軽町)

いいね ツイート
0

新事業で地域雇用を創出
―じゅんさいとフルーツトマト栽培―
株式会社管野組(北海道遠軽町、代表取締役社長管野伸一)

【ムコ多糖との出会い】
 原石採取跡地の活用といえば、一般的には跡地の池を利用した魚の養殖事業が考えられる。しかし当社では、立地条件や環境を熟慮した結果、水質汚染が将来の事業に多大なリスクをもたらす可能性があると判断した。水質浄化には多額のコストが必要となることもあり、事業化の方法を再考することにした。

 そんな時、森本雅悠理学博士の著書との出会いが、新事業のヒントとなった。その本とは、驚異の若返り物質・健康長寿の秘密『老化の原因はムコ多糖の不足だった』(KKロングセラーズ発行)である。

 「若い人に比べ、お年寄りがみずみずしさを失うのは、ムコ多糖の減少が大きな原因である。60歳を過ぎると、その合成能力が55%も失われる」とのことだった。

 ムコ多糖とは、牛の髄液やウナギなどの動物性のネバネバ物質。植物系では納豆やオクラ、そして「じゅんさい」などの単純多糖体のことである。成人病の予防・治療や老化防止、美肌、視力の増強、滋養強壮など、中高年以降の世代が抱える健康、美容上の問題を驚異的に改善する力を持っている。

【じゅんさい栽培をスタート】
 新事業としてじゅんさい栽培を決断した理由は、栽培に適する水深や水温、水量、水質などの水利条件と天候などが、当地に合っていたからである。

=じゅんさい栽培の条件=
 ・水質=鉄分・塩分・窒素分がないこと
 ・水深=適正80〜100a。暖地では150abくらいでも良い
 ・水温=10度以上で生育し、適温は20〜30度である
 ・水量=豊富な水量で、あまり流れがないこと
 ・天候=日照時間が長く、雨量が少ないこと
 ・設備=水位の調整が可能なこと

 1990年8月、北海道に農地法第4条の許可を申請(農地転用)。91年5月には、原石採取跡地を利用したじゅんさい栽培池(栽培池、貯水池、排水池)が完成した。その後、じゅんさい栽培許可を得て、手続きスタートから1年後の同年8月に初植栽を行った。

 こうした手続きや工事を進める間にじゅんさい栽培の先進地である秋田県山本町で栽培指導を受けた。また、秋田県立産業短期大学の戸崎哲男教授より、害虫駆除、水草の除草、栽培条件などの指導もいただいた。

 一方、じゅんさいの苗については、栽培池の完成後に購入できる約束だったが、完成と同時に苗の購入が不可能となってしまった。しかし、戸崎教授の好意により、大学の試験栽培池より1反部の苗を購入して事なきを得た。

 その後は、93年11月に栽培池を増設(1反部の苗を増殖)。翌94年7月には加工場を完成させるとともに、8月からイベント会場や道の駅でのじゅんさいの一般販売をスタートさせた。

【「オホーツクじゅんさい」としてブランド化】
 もともと北海道には、じゅんさい栽培の先進地として知名度が高い七飯町、大樹町、白糠町があった。差別化しなければ、当社のじゅんさいは市場に出ないと考え、「オホーツクじゅんさい」として、特徴をアピールするとともに、ブランド化を図ることに苦慮した。

 商品の特徴として、@ヌル(寒天質)の量を多くする技術と新鮮な色出しAヌル(寒天質)の持続性と保存B商品の回転を早めることC安心・安全な品質を消費者に提供することD消費者への保証―にこだわった。

 販売に当たっては、一般消費者への販売促進を意識した。というのも、北海道では、じゅんさいが高級食材として高級料亭などで扱われているイメージが強く、一般の食材としてあまり認知されていなかったからだ。

 当社では、一般の消費者に提供していくため、ホテルや寿司店、そば店などにターゲットを絞り、販売を行った。また、健康食品としてのイメージ作り、身近な食材としてのイメージ作りのために、自社でレシピ開発を行うなど、一般食材としてのアピールに努めた。また、インターネットを使った販売促進も行っている。

 今後は、産学官連携を図り、「じゅんさい」の特徴であるヌルの成分を、他分野へ活用しようと考えている。すでに共同研究に着手し、新たな新分野進出を検討中である。

【光触媒とフルーツトマト】
 じゅんさいは地下茎であるため、5年程度で腐食してしまう。その腐食が原因となる土壌の劣化とガスの発生により水質が汚染され、生産力が落ちる。

 当社ではこの防止を図るために、炭の特性である吸着能力を利用することにした。建設現場から出る木材や廃材、ダムの流木などを炭化し、栽培池に投入。土壌の改良と水質改善を促し、一定の効果を得た。

 さらに一層の効果を出すために、光触媒による触媒効果を利用することを考えた。光触媒は、その強力な酸化力により、水中に溶け込んだ種々の有害な化学物質や空気中の化学物質を分解・無害化でき、水質浄化・脱臭・排ガス処理・土壌改良・抗菌・抗カビなどに広く応用される。

 光触媒と炭のマッチングを、広く農業生産分野にも活用すべく、産業技術総合研究所の垰田博史先生に指導してもらいながら試験研究した結果、土壌改良などで効果が高いことを実証できた。

 そこで2004年には、ビニールハウス2棟を購入し、フルーツトマトの試験栽培を開始、挑太郎の品種を定植した。土壌には光触媒を練りこんだ粉末炭を混ぜ、室内には光触媒炭を随所に設置し、菌やカビ発生を抑制する仕組みである。糖度11度を目標に現在試験栽培を行っている。08年度からは品種を、挑太郎から小ぶりで糖度が高まる「アイコ」「シンディースイート」「トマトベリー」の3種類とし、奮闘している。

 これらを、地元のスーパーと道の駅で販売しているが、収量が天候に左右されたり、糖度にばらつきがあるといった問題もあり、さらなる研究に取り組んでいる。

【建設業の使命とは】
 建設業の受注環境は、ここ数年で「指名競争入札から一般競争入札へ」「技術力と経営に優れた企業が生き残る入札制度へ」と大きく様変わりした。総合評価型入札が主流となった昨今、建設企業は「技術」と「経営」の両立を目指さなければならない。

 当社でも、品質マネジメントシステム、環境マネジメントシステム、労働安全衛生マネジメントシステムを導入し、鋭意努力しているところだが、中でも労働災害の発生は企業経営に大きな痛手となる。リスクアセスメントを徹底するために、教育の実施に加え、建設作業員の定年年齢(65歳)の徹底を図っている。

 一方で公共事業は、国民の貴重な浄財(税金)で計画・企画・立案され、事業化される。それらの公共事業が経営の主たるウエートを占める建設企業は、積極的に地域還元をしなければならない。町づくりや地域経済の活性化、そして地域の雇用の創出などは、建設業の重要な使命である。

 実際のところ、北海道の過疎地域では働きたくても働くことのできる場所がない。雇用の場を提供することが、建設業の使命であるならば、その場を確保するためにも、グループ会社や新分野進出事業部がその役割を果たしていきたい。また地域の建設業は、自ら「ヒト・モノ・カネ」を出し、イベントなどに参加し、地域の文化・芸術・歴史の継承、そして人づくりを率先するべきと考える。

企業プロフィール
【会社名】株式会社管野組
【代表者名】代表取締役社長管野伸一
【所在地】北海道紋別郡遠軽町丸瀬布東町98
【電話】0158(47)2331
【資本金】5000万円
【創業年】1931年3月
【社員数】42人
【URL】http://kanno-co.com
【事業内容】土木・建築工事業、石油類卸小売販売業、砂利販売、建設機械・仮設機材の賃貸業、不動産売買・賃貸・管理
【関連会社】椛n造塾=木炭・竹炭の製造・販売、産業廃棄物・生ゴミ・木材・竹などの炭化試験・研究、堆肥を利用した農地の土壌改良試験・研究、水耕栽培法による野菜・果実の生産及び販売▽轄kエ組▽潟Gー・ピー・エム▽遠軽地区維持管理協同組合
【複業含む就業者数(パート含む)】80人

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは 
http://www.kentsu-it.jp/book/book.html