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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第4回 未来型農業の経営に参画 株式会社深松組(宮城県)

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未来型農業の経営に参画
―日本の原風景を未来の子供たちへ―
株式会社深松組(宮城県仙台市、代表取締役社長深松努)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu-it.jp/book/book.html

【複数の企業が連携】
 竃「来彩園は、「『安心・良質・安定』の農産物生産システムで未来型農業の構築」をテーマ、「大規模農場経営による質的変換で魅力ある農業へ」をキャッチフレーズに、農業と建設業の融合事業として生まれた。

 未来彩園の社長・笠原亨は、建設会社の経営者として、景気の低迷と公共工事の減少による先行き不透明感から、従業員の安定雇用を懸念した。そして農業の抱える後継者不足・遊休田・資金不足などの諸問題を検討した結果、農業をビジネスチャンスと捉え、宮城県の経済再生戦略プロジェクトに呼応し、農業生産法人の設立による雇用創出と産業再生対策を目的に農業参入を決意した。この決意にほかの建設会社2社の経営者を含む出資者が賛同し、2006年に農業生産法人許「来彩園を創立した。

 後に増資を実施。出資者の一人が経営する叶[松組が大口株主となり、竃「来彩園に組織変更した。これに伴い会長に、深松組の社長である深松努が就任した。

【トマトのブランド構築】
 未来彩園の栽培技術の特徴は、採光性に優れたトラス式ダッチライト型温室で、養液栽培によるトマト長期多段取り栽培を行っていることだ。多収及び安定生産を図り、オランダ品種(※)を導入し、GAP(農業生産工程管理)手法に基づく管理を行い、PDCAサイクルを実践している。

 販売では、系統出荷をせず、量販店や市場に直接出荷し、各種手数料を軽減している。シーズンごとの値決めによる高単価の維持により、「彩りトマト」のブランドを構築している。主な販売ルートはみやぎ生協や大田市場・大治、横浜富士スーパー、直売所だ。

 未来彩園は農業初心者がほとんどの状態でスタートしたため、稚拙な栽培技術によって1年目は大幅に生産計画を下回った。また、参入に当たり、県などが実施した農業施設建設費用の2分の1の補助事業を利用。その際、JA系統でない独自の販売先を確保することが条件だったため、販路の開拓に苦労した。

 2年目以降は1年目の失敗を生かし、建設業から異業種への参入の利点を活用し、宮城県で初めてのGAPの認証取得により、管理能力が格段に向上した。さらに販売面では独自販路の規模の拡大により、直接販売比率を85%までアップさせた。単価の大幅な引き上げもあり、当初予定の売上高1億円以上を達成した。
※オランダ品種の種類―大玉(富丸ムーチョ)、中玉(サントランジュ・房採フロリーノ・オレンジーノ)

【木質バイオマスを燃料に】
 トマト栽培の課題は、原油価格の高騰による暖房費・包材・資材などコストの大幅なアップだ。また、優秀な人材確保のため、近隣企業とのパート時給の格差是正のための労務費の増加も迫られる。そこで、収量の増加や製造コストの削減、販売単価アップなどを通じた体質強化に努め、経営の安定化を目指している。

 収量の増加については、現施設は充分な利益を生むに必要な収量の確保が困難であり、規模の拡大による増収を検討している。

 コスト削減では、環境省の温室効果ガス排出削減・吸収クレジット創出支援事業の補助金の採択を受け、木質バイオマスの燃料化プロジェクトを適用、バイオマスボイラーを1基設置した。その結果、11年度からは、現在使用している重油・灯油と比べ燃料費を約70%カットできる。CO2も1基当たり年間700〜800d削減でき、その削減したCO2はオフセットクレジットとして利用できる。

 単価アップについては、エンドユーザー向け販売を念頭に、「彩トマト」のブランドの育成・強化を図り、将来を見据えた販路の再構築に取り組んでいる。

 ネットでの販売強化や、6次産業化に向けた取り組み、規格外品の加工・商品化などを検討。大型スーパーなどの販売比率を下げ、エンドユーザー向け商品を開発し、高単価・高品質の商品を提供することを目標としている。

【地域に必要とされる企業へ】
 深松組は、創業者・深松幸太郎が現在の富山県下新川郡朝日町で水力発電所建設の施工を主な事業とし、1925年3月1日に個人経営で創業した。

 53年に個人経営から有限会社に組織変更し、本社を仙台市に移転した。54年に株式会社に組織変更し、現在に至る。

 本業の建設業では、新潟県、青森県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、長野県で発電所の建設や関連施設の建設・改修・修繕工事を施工。現在では、これらに加え、官公庁の土木・建築工事、民間の住宅、賃貸マンション、民間施設の建設工事を施工している。

 建設業以外の分野では、59年に関連会社として、拠ゥ日石油を設立し、ガソリンスタンド経営に参入。72年より賃貸住宅業を開始した。平成に入って賃貸マンションの拡充に努め、現在では経営を支える柱になっている。

 また、地域への社会貢献事業の一環として、地域NPO法人と連携した広瀬川、名取川、阿武隈川の清掃活動、仙台市内5保育園の砂場再生事業、青色回転灯装着車と子供110番による防犯パトロールの実施、消防団協力事業所など、地域にとって本当に必要とされる企業を目指して、さまざまな活動を精力的に行っている。

 出資事業では、松森PFI株式会社への出資によって、スポパーク松森のPFI事業、野村給食PFI株式会社への出資によって野村給食センターのPFI事業に参加している。
また、みやぎ未来バイオ合同会社を設立、米からつくるバイオエタノールの研究や、「脱石油」を目指した木質バイオマスの燃料化プロジェクトも実施している。

 そして10年からは未来彩園の経営にも参画した。

 これらの事業を通して、地球温暖化の問題が世界中で叫ばれている中、「CO2削減」をキーワードとして農林業と建設業を活性化させ、日本の美しい原風景を未来の子供たちに残していきたいと考えている。

企業プロフィール
【会社名】株式会社深松組
【代表者名】代表取締役社長深松努
【所在地】宮城県仙台市青葉区北山1ノ2ノ15
【電話】022(271)9211
【資本金】9347万円
【創業年】1925年3月
【社員数】97人
【URL】http://www.fukamatsugumi.co.jp/
【事業内容】総合建設業、不動産賃貸業、不動産取引業
【関連会社】竃「来彩園▽みやぎ未来バイオ合同会社
【複業含む就業者数(パート含む)】148人