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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第5回 無農薬青じその生葉・加工品の販売 株式会社野本組(新潟県)

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無農薬青じその生葉・加工品の販売
―ベンチャー会社、商社と連携して事業を確立―
株式会社野本組(新潟県妙高市、代表取締役社長野本剛男)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu-it.jp/book/book.html


 公共事業の先行きに警鐘が鳴らされていた。当社とて例外ではない。会社を継続していくために、会社を支えるもう一本の柱が必要だ。当社には何ができるのか。新事業分野を検討するため、東京都内で開かれていたビジネススクールに参加した。
 
 当初は、建設業とあまりかけ離れたものでなく、環境分野の中にビジネスチャンスがないかと考えた。しかし、なかなかふさわしい事業は見つからない。これはと思ったものも、いざ具体化という段階となると、とん挫してしまう。その繰り返しだった。

【青じそとの出会い】
 2003年7月、ビジネススクールで画期的な農業の視察研修が実施された。東京のベンチャー会社が伊豆大島で取り組んでいた「農薬を使わずに青じそを栽培する」というものだった。

 青じそは虫が付きやすい野菜で、これまでは農薬無しの栽培は難しいと言われていた。だが実際に食べてみると、農薬の「あり」と「無し」では、味の違いが明確だった。

 そのような出会いや発見はあったが、最初は当社が農業をやろうとは考えていなかった。しかし、ベンチャー会社からの売り込みもあり、しだいに興味が募った。検討の結果、その年の10月に参入を決め、子会社の鰍mBファームを立ち上げた。

【資金、販路など三つの課題】
 最初の戦略は、まず小規模で事業を開始し、状況を見ながら拡大していくというものだった。だが、ベンチャー会社は「初めから大規模に実施したい」という。

 シミュレーションを行い、検討を重ねる中で、@資金調達をどうするかA販路をどうするかB雪国での栽培の是非―の三つの課題を解決すれば、大規模でのスタートも可能と考え始めた。

【試験栽培で栽培の是非を判断】
 三つの課題については、それぞれ次のように解決した。
 まず資金調達をどうするか。当初は補助金、農業漁業金融公庫のスーパーL資金を検討したが、実績がないことからいずれも融資が認められない。その後、事業計画をメーンバンクに持ち込み、融資が決定した。

 販路については、販売会社として商社の潟買Hークストレーディングが名乗りを上げた。当社から青じそを買い上げ、それを全国の問屋、スーパーなどに販売することになった。

 最後に雪国での栽培が可能かどうか。参入決定後の03年12月に試験棟(30坪)を建設し、実験を始めた。04年3月に苗の生育を検証した結果、冬季間でも栽培可能と判断するに至った。

【無農薬に大きな付加価値】
 資金調達はもちろんだが、当初から販路が決まっていたことは、その後の展開に大きく寄与したと感じている。

 また、そもそも青じそは、通年栽培が可能で年間の収穫量が多く、1枚当たりの単価も高い。マーケットとしてもニッチで新規参入しやすいことがプラスになった。そして何よりも、農薬を使用しないことに大きな付加価値があるのではないかと考えていた。

 事業は、▽技術提供(ベンチャー会社)⇒▽栽培(NBファーム)⇒▽販売(ヴォークストレーディング)―と役割分担した。

 栽培地については、1棟600坪(1980平方b)の大規模農業ハウスが3棟必要で、広大な敷地を用意しなければならなかった。地元の新潟県妙高市役所(当時新井市)に相談したところ、市の遊休地を貸してくれるという。紹介された数個所の中から現在栽培している妙高市大字小原新田に決めた。

 建設は野本組が担当し、約4500坪(1万5000平方b)の土地に管理棟、設備棟、栽培ハウス3棟を建てた。投資額はハウス3棟で約2億円、管理棟・設備棟で約9000万円。04年7月に着工し、同年10月に完成した。

【売上1億円を突破】
 栽培は、播種を前記の実験棟である程度まで大きく育て、その後に各棟に定植、そして育苗という手順で行った。04年12月には初出荷に漕ぎ着けた。

 しかし、3カ月経過した時点では、シュミレーション通りの数字はなかなか上がらなかった。原因を追及すると、順調に生育はしているのだが、収穫の作業が間に合っていないことが分かった。

 事業計画を立てた際に参考としたのが、昔から栽培が盛んな茨城県の青じそ農家だった。収穫作業に関する問題点を相談すると、快く受け入れてくれた。ビデオ撮影した熟練収穫者の作業(主に手元)の様子を職員に見せて勉強させたり、熟練収穫者を招き直接技術指導してもらった。こうした取り組みにより、しだいに当社の職員の収穫量も増えていったのである。NBファームでは、約30人のパート女性が収穫を担当しており、収穫が軌道に乗るまでに約1年がかかった。

 栽培では、農薬を使わないことが売りであるため、病害虫には細心の注意が必要だ。しかし植物工場は完全密封されているわけではなく、時には被害を受ける。害があっという間に広がり、何度か大きなダメージを被った。

 紆余曲折はあったが、06年にはようやく栽培も安定し、1億円の売り上げを突破するようになった。

【加工品の開発・販売にも着手】
 このほか、病害虫被害のリスクを軽減するため、これまでなら商品として使用できなかった葉(下葉)にも注目した。葉(下葉)をすりつぶし、加工などを施して製造するミンチ、ペースト商品の開発に乗り出したのである。ドレッシングやシソエキスなどとしての利用を想定し、業務用加工素材としての提案を行っていった。また加工品の事業化に当たっては、08年9月に国の農商工連携事業の第1号認定を取得し、試作品開発と販路開拓を行っている。

 今後は生葉の安定供給と加工品の売り上げを伸ばし、子会社(NBファーム)の経営をさらに安定させたいと考えている。

【地域建設業のモデルケースに】
 新規事業参入の大きなメリットは、経営者の思いが社員に浸透し危機感が高まること、地域雇用の拡大に貢献できることが挙げられる。また、行政をはじめ、見学希望者が多く、本業(野本組)の良いコマーシャルにもなった。

 当社では、今後も青じその提供を通して、より多くの人に食の安全・安心の重要性を理解してもらえるよう取り組みたい。また、地方における建設業のモデルケースの一つとして成功できるよう努めたいと考えている。

企業プロフィール
【会社名】株式会社野本組
【代表者名】代表取締役社長野本剛男
【所在地】新潟県妙高市美守1ノ13ノ10
【電話】0255(72)3194
【資本金】4500万円
【創業年】1930年9月
【社員数】27人
【URL】http://www.nomoto-gumi.co.jp
【事業内容】土木・建築設計施工
【関連会社】鰍mBファーム=無農薬野菜の栽培及び販売、無農薬食品、健康食品、健康飲料の開発及び販売
【複業含む就業者数(パート含む)】49人