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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第6回 奥飛騨から金賞受賞米 有限会社和仁建設(岐阜県高山市)

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奥飛騨から金賞受賞米
―関連会社が連携し農業経営―
有限会社和仁建設(岐阜県高山市、代表取締役和仁松男)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu-it.jp/book/book.html

【耕地荒廃に危機感】
 高齢化の進行や後継者不足で、地域の耕地の荒廃が徐々に進行しているのを目の当たりにして、「このままでは耕地のみならず、我が故郷の素晴らしい環境まで消滅してしまう」との危機感から、農業への異業種参入を決意した。折しもその年2002年は小泉内閣の「聖域なき構造改革」の序章段階。建設業である我が社は「痛みなくして改革なし、改革なくして成長なし」の「痛み」をまともに受けていくこととなるが、雇用を守り、建設業としての技術力や機械を有効に活用するための農業参入は、まさに社運をかけた一世一代の決断であった。関連会社として事業を行っていた級恃騨エコセンター、級恃騨新鮮村の存在も、農業参入する上で重要な役割を果たすこととなった。

【迷いや不安との戦い】
 兼業農家を営む従業員が多数在籍していたこともあり、農業(水稲・野菜栽培)に関する知識や技術、経験がまったくないわけではなかったが、「自立した農業」「ビジネスとして成り立つ農業」を確立していくには、当然、多くの問題や課題が立ち塞がった。

 まず1点目は、やはり素人集団であるため失敗の連続であったこと。農業の成果は1年経たないと見えないため、常に迷いや不安との戦いであった。2点目は既存農家や各種団体とのあつれき。参入当初は、農法や考え方の相違から、冷ややかな視線を浴びながら取り組んでいった。3点目は農地の確保。事業開始に当たっては、リース特区による特定法人の認定を目指したが、耕作放棄地以外の農地への法人参入が認められなかったため、条件の良い耕作地の面的集約は難しく、結局、小さい区画の耕作地や急傾斜地など条件の不利な土地で事業をスタートした。4点目は資金の手当て。農業への参入は多くの投資が必要であるが、新規参入者にとっては「農業政策の生産調整」に非協力などの理由で公的補助が受けにくい。このため、初期投資はほぼ自己資金で補ってきた。

【「失敗して当たり前」の精神で】
 さまざまな困難はあったが、日本農業新聞で勉強しながら、「失敗して当たり前」の精神で取り組み、研究をしながら楽しみの持てる農業を目指してきた。

 参入当初は、代表者の和仁松男個人が認定農業者となり、土地所有者と農地利用権設定を結び、農業を行ってきたが、現在は農業生産法人・釜a仁農園が農業経営改善計画の認定を受け、認定農業者として事業を展開している。

 和仁農園の農業経営では、関連会社との効率的かつ効果的な連携が重要なポイントとなっている。耕作放棄地の再生には和仁建設の建設技術を活用し、その耕地で水稲・野菜栽培を行うのが和仁農園である。また、米の徹底した良食味を追求するためには、有機堆肥の製造・使用が必要不可欠であり、これを奥飛騨エコセンターが担っている。生産された農作物の販売は、顧客や販売ルート・ノウハウを持つ奥飛騨新鮮村が担当している。

 荒廃農地の再生から生産、販売までの一連の事業を効果的に連携させるためには、第1次産業から第3次産業までをネットワークとして捉える、いわゆる第6次産業としての展開が必要であると考えている。それによって、各社が得意分野に注力するとともに、最大限の効果が上がり、全社が一体化することができる。

【感動も届ける】
 現在、和仁農園の農業では、建設業で培った効率的な技術や手法、工程管理を活用しながら、昔を思い起こす原点に返った農業を実践している。その成果は、毎年行われる米・食味分析鑑定コンクール国際大会において、07年度から10年度までの4年連続総合部門入賞(このうち3回は金賞受賞)という栄誉に結び付いた。受賞をきっかけに、私たちのやり方が地域で認められるようになり、耕作依頼や作業委託を受ける面積が急速に拡大している。また、受賞米として付加価値の付いた販売戦略を展開することにもつながっている。

 しかし、これらは和仁農園の農業に絶大なるご理解・ご支援をいただいている地域や顧客のおかげである。こうした支援者と一体となった農業を展開していくために、和仁農園では水田のオーナー制度や各種農業体験の実施、情報発信のための新聞「奥飛騨農園だより」の発行、ホームページの開設、自社イメージアップのためのオリジナルソング「届けよう!きらめき」の作曲など、商品だけでなく常に感動も一緒に届けられるよう努力している。地域に対しては、将来を担う子供たちと共に環境調査の実施や農作業体験学習を行い、農業環境の向上、環境保全意識の啓発活動を行い、地域の活性化と農業文化の承継につなげられるよう取り組んでいる。

 今後、従来の慣行農法とは異なる棚段やLEDを用いた育苗方法の開発、独自の作付け時期の設定による作業の平準化などにより、「自立した農業」「ビジネスとして成り立つ農業」を確立する方針だ。さらに、自社商品を地域ブランド化し、奥飛騨の魅力と感動を世界に発信できるような農業経営を目指したい。

企業プロフィール
【会社名】有限会社和仁建設
【代表者名】代表取締役和仁松男
【所在地】岐阜県高山市上宝町見座352
【電話】0578(86)2030
【資本金】2000万円
【創業年】1961年2月
【社員数】22人
【事業内容】土木工事業
【URL】http://www.wani-nouen.com/
(和仁農園)
【関連会社】和仁農園(水稲・野菜栽培・観光農業、社員6人)ほか
【複業含む就業者数(パート含む)】37人