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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第7回 地元産業振興と雇用創出へ 飯古建設有限会社(島根県海士町)

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地元産業振興と雇用創出へ
―隠岐牛と漁業で島おこし―
飯古建設有限会社(島根県海士町、代表取締役田仲寿夫)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu-it.jp/book/book.html

【素人が漁業】
 小さな島の小さな4漁業協同組合が不漁や魚価の低迷に喘ぎ、大きな負債を抱え込み、破産状態だった。漁協の経営改善に向け、当事者と行政との話し合いが行われた。その結果、負債の主因である直営の定置網事業部を売却し、そこで得た資金を負債の返却に当て、新たな一つの漁協として再スタートすることが決まった。売却先として、地元では優良企業である建設業者に白羽の矢が立った。
1995年に漁協から依頼がきた。

 漁業に関しては、まったくの素人だった私たちにとって、思いもしない出来事だった。しかし、考えてみると、地方の公共事業とは第一次産業があっての公共事業であり、漁業が衰退すると、それまでに整備された漁業関連施設が無駄になってしまう。さらに新たな公共事業も無くなってしまう。また、これまでと違った環境づくりも必要だと思った。それまでお世話になった地域に少しでも貢献できればと、社内で反対がある中、引き受けることを決断した。

【再投資で業績改善】
 さすがに大きな負債をつくっただけあって、漁業は参入当初から採算割れの日々が5年間ほど続き、その都度、建設業で出た利益で賄った。撤退も考えたが、地域のことを考えると、やめるにやめられず、混迷が深まった。
 
 しかし、もう一度チャレンジしてみようと決意し、老朽化した漁網漁具や漁船などに再投資を行い、効率化を図った。その年から、それまでに無く豊漁となり、経営的に黒字化が実現できた。現在、島内の漁獲高の50%以上を占め、漁業協同組合の経営にも大きく貢献している。

 また、Tターン家族や若者の働く場所として受け皿になり、現在、定置網従事者11人中6人がTターン者であり、事業の中心的存在になっている。

 今後の戦略として、消費者のニーズに応えるための調査研究や、島の商品を丸ごと営業活動できる会社の設立を検討している。また、鮮魚の販売だけでなく、干物など、加工品にも力を入れていきたい。

【畜産で産業振興】
 小泉政権時代の三位一体改革での地方交付税の大幅な削減により、公共事業はピーク時に比べ50%以下に激減し、危機的な状況となった。

 地方自治体もこの危機を脱するため、職員自らの申し出による給与の削減や行財政改革を断行し、そこで得た資金を元に大胆な産業振興に打って出た。職員が自ら血を流しながら地域を守ろうとする姿を見た時、こういう時こそ民間の力が必要だと考えた。また、成功とはいえないが、漁業である程度の成果が出たことが農業参入にとっても大きな力となった。

 島では、今でも昔ながらの牧畑の名残がある。その特性を生かしながら牛を飼うことで地域に貢献ができ、産業創出にもつながると考えて畜産に取り組む意思を固めた。先進地に視察に行くと同時に敷地造成や牛舎の建設に取り掛かった。牛に関してもまったくの素人であったため、地元で畜産を営んでいる方の協力を得ながらのスタートとなった。当初は繁殖牛のみを生産販売する計画だったが、隠岐牛のブランド化には肥育牛への取り組みも必要不可欠と考え、肉牛の生産も手掛けることにした。

 当初は建設会社の畜産部として取り組んだ。当時はまだ規制緩和がなされてなく、会社組織の農業参入は農地法により難しい壁があった。その規制を取り払うには構造改革特区の認可が必要と聞き、申請した。

 その結果、建設会社100%出資の級B岐潮風ファームを2004年1月に設立し、3月に「潮風農業特区」の認定を受けた。

【東京の市場でブランド化】
 肥育牛を育成する一方、離島のハンディキャップを乗り越えるためにはブランド化が不可欠であり、品質に厳しく、ふところの深い東京を市場と定め、東京食肉市場に営業に行った。
 
 市場からは「いま時、安全安心は当たり前。ブランド化を望むなら定時定量の出荷をすること」と厳しく言われた。

 当初の計画では月に6頭ほどの出荷を考えていたが、市場の提示した頭数は10頭だった。現在は月に12頭を出荷している。

 06年3月に3頭ではあったが、初出荷・初セリが行われた。3頭すべてが牛肉では最高品質とされるA5と格付けされ、キロ当たり3000円以上で取引された。目標価格は2500円だった。また、肉質は松坂牛以上と評価され、松坂牛の生産者からも「完敗です」との言葉をいただいた。松坂牛以上を目指していたから、こんなに嬉しいことはなかった。

 しかし、良いことはそんなに長くは続かなかった。頭数が増えるに従って、品質にバラツキが出始め、「もう隠岐牛は終わった」との酷評を受けた。また、牛の飼料である穀物がバイオマス燃料に利用されることで価格が倍増し、経営的に大変厳しい時期もあった。
経営規模は現在、肥育牛310頭、繁殖牛100頭、仔牛35頭の計445頭。遊休農地での飼料作付面積は7・5fとなっている。

 現在は品質的には安定している。しかし、今の社会状勢の中ではなかなか思うような価格にはならない。飼料や燃料の高騰のほか、経済状況の悪化による食い控えや買い控えによる肉用牛の価格の下落が課題だ。

 厳しい社会状勢だが、品質の向上に向けて努力している。また、食肉市場から現在の出荷頭数を約2倍に増やしてほしいと求められている。その課題を克服するため、まず地元での仔牛の生産増強に力を入れたい。近い将来、環境が整えば、その要望に応えられると思っている。

 また、東京の真ん中で、地域の農産物を取り扱うアンテナショップの出店にも漕ぎ着けたい。

企業プロフィール
【会社名】飯古建設有限会社
【代表者名】代表取締役田仲寿夫
【所在地】島根県隠岐郡海士町大字福井387ノ2
【電話】08514(2)0232
【資本金】3000万円
【創業年】1977年9月
【社員数】60人
【URL】http://www.hanko-kensetsu.com/
【事業内容】港湾工事・土木工事一式、産業廃棄物処分業、給排水設備工事、生コンクリート製造販売、定置網漁業
【関連会社】級B岐潮風ファーム(畜産業、資本金9800万円、社員7人)
【複業含む就業者数(パート含む)】70人