建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第11回  業界単位で林業に本格参画 たかやま林業・建設業協同組合(岐阜県高山市)

いいね ツイート
0

業界単位で林業に本格参画
―低コスト木材生産システムの確立目指す―
たかやま林業・建設業協同組合
(岐阜県高山市、専務理事長瀬雅彦・長瀬土建代表取締役)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【豊富な地域資源を活用】
 岐阜で開催された建設トップランナーフォーラムでテーマになった林建協働がきっかけとなり、内閣府の補助事業である地方の元気再生事業に「建設業の参入促進による林業改革モデルプロジェクト」が採択され、研修を2年間積み重ね、2009年1月28日に「たかやま林業・建設業協同組合」を発足させた。

 飛騨高山地域(白川村を含む)は、森林面積が23万5000fと、林野率が93%に上る。このうち民有林は13万5000fで、岐阜県の約2割を占める。

 この広大な森林を適正に管理し、地球温暖化防止に貢献するとともに、豊富な資源を有効に活用するため、地域の建設業者と飛騨高山森林組合の協働によって、森林施業の集約化と、高性能林業機械の活用と地域に合った路網整備による低コスト木材生産システムの確立を目指している。

【三つのポイント】
 取り組みのポイントとして次のことが挙げられる。

◆先導性・モデル性:森林組合との協調による建設業の業界単位での林業への本格参画は全国初の取組みであり、建設業の複業化推進に向けたモデル的な組織となり得る。

◆相乗効果:地域全体の森林管理を森林組合と建設業が協働作業で取り組み、計画的な森林整備・木材生産体制を確立する。

◆雇用安定・地域再生:飛騨高山地域において、地域の森林管理不
足と建設業者の雇用確保の課題を、これまで連携のなかった林業と建設業が積極的な協働を行い、ビジネスとして確立することで、建設業労働者の林業分野での雇用を促進し、飛騨高山地域の資源である木材の生産などにより、地域の再生(経済効果の発生)を図る。

【モデル団地を形成】
 10年度、岐阜県で進める「健全で豊かな森づくりプロジェクト」にも応募し「林建協働プロジェクト」として認定され、高山市清見町夏厩において482fの団地を形成した。提案型による環境保全と効率的な木材生産の両立を目指す森林のモデル団地の形成を目指し、林建協働を推進していきたい。今後、その他の地域においても作業道の開設、間伐、境界明確化などの作業を実施していく。

【建設業の技術など活用】
 建設業の得意分野は何か考えた場合、建設業と林業協働の在り方として、まず、森林整備に対する人手不足に建設業の人員を活用すること、そして、建設業の技術ならびに機械の利用を促進することが想定された。

 建設業が実際にできることには、どのようなものがあるのだろうか。自問自答を含むものではあるが、想起される事柄については、@高密度の作業路網の整備A団地化・集約化・境界明確化の協働作業B測量および設計、データ管理への対応Cベースマシンとしての機械の運転操作D道づくりの技術E工程、コストおよび実行予算管理、施工管理の技術F労働安全衛生管理に対する知識G経営マネジメント力―が挙げられる。

 また、組織づくりとしての課題としては@新組織の役割に関する再確認(路網整備のみ行うのか、間伐・集約化などを含めすべての森林整備に取り組むのか、新しい分野でのバイオマス関連事業まで手掛けるのか―など)A既存の森林組合、林業事業体との事業区域の棲み分け、連携体制・内容B新組織設立の経営方針・計画樹立とそれに伴う調整C事業地の確保D市有林などのフィールドの提供などの情報E行政サイドの新組織と森林組合の位置付けと支援・指導などF新組織をすべてまかせられる人材(専務理事クラス)の確保G林建協働を今後進める中での調整役の選定―がある。

 技術的な課題としては@効率的かつ安全な作業システムの構築A採算性、生産性を考えた造材技術(プロセッサ、ハーベスタなどの高性能林業機械なのかチェーンソーか)B作業路網の作設技術C排水計画(屋根型構造、暗渠排水)D森林技術者や技能者の養成(フォレスターのような人材、優れたオペレーター、チェンソーマンの養成。継続的なスキルアップ)E安定的な素材生産のシステム構築―が考えられる。

 排水計画では▽崩れない道づくり(切土高さを考えた施工)▽環境対策(生態系、土壌の保護)▽集材を考えた作業路網の選定―を考えていく必要がある。

【森づくりと企業の目標】
 林業とは、非常に奥が深く、まだまだ技術も知識もおぼつかない。しかし、地域のインフラ整備と同様に、地域の森林を整備することは地域の安心・安全を守るものであり、目指すところは建設業と同じであると感じている。

 100年前のドイツで、アルフレート・メーラーという林学者が『恒続林思想』という本を残している。この本を読むと、メーラーは、森づくりの営みを単なる仕事ではなく、芸術的行為ととらえ、森づくりの究極の目標は、「健全なる森林有機体の恒続」にあると説いている。メーラーは、このような「永遠に存続する有機体としての森林」を「恒続林」と名付けた。そのための森づくりの在り方について、恒続林は「生き生きとして強健なるが故に、美しい。そして、この森林を取り扱う林業家は、価値を追求しながら美に触れ、美の作品を創りながら、価値の作品を作る、類稀なる特権を持っている」と述べている。

 そして、恒続林思想を象徴するのが、「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林」という言葉である。メーラーにとって経済性の追求は、その究極において、美を求める芸術的営為と一致するものであり、美を求める営為こそが結果として経済性をも生むと説いている。

 企業にとっても「健全なる企業組織体の恒続」、つまり、いつまでも「生き生きとして強健」で、選ばれ続ける企業になることが究極の目標であり、その目標を実現するための努力こそ大切なのではないかと思う。そして、森林同様、美しい企業は、また収益多き企業となるのではないか。そのためにも林建協働という取り組みでは、健全なる恒続思想を持ち、価値を追求する組織として邁進することが重要であり、100年前の思想が今なお恒続していることは本物の証といえると思う。

【生産性の高い林業経営へ】
 周りからよく言われる、建設業の業界人にありがちな、公共事業が減るから急に林業へ転業する(林業参入)という考え方では諸々無理があり、なおかつ安易に過ぎると言わざるを得ない。中長期的な視野に立ち、建設業だからできる生産性の高い林業経営に、時間をかけて変わっていくことを目標に掲げ努力していきたい。

 また、雇用の創出は重要である。そのためにも複業化で雇用を維持する必要があり、地域で努力している建設業が地域社会を盛り上げるために、必要な公共事業を担わなければならないと痛感している。そしてまた、地域の安心、安全のためにインフラ整備を進めてきたのと同様に地域の森林も守ることが使命だと感じている。いまわれわれは建設業と同様に熱い思いで林建協働に向かっている。


企業プロフィール
【会社名】たかやま林業・建設業協同組合
【代表者名】代表理事大山龍彦(大山土木代表取締役)
【所在地】岐阜県高山市下岡本町2344ノ6
【電話】0577(57)8890
【創設年】2009年1月
【組合員数】16社・1組合
【URL】http://www.takayama-rinken.com/

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会