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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第14回「樹皮リサイクルで地場産業の林業に貢献」 株式会社内山建設(宮崎県日向市)

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樹皮リサイクルで地場産業の林業に貢献
―社会に必要な会社となるために―
株式会社内山建設(宮崎県日向市、代表取締役内山雅仁)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

 九州の宮崎県北部の日向市で建設業を営んでいる。2011年で創業55年目になる。

 売上規模は10億円で、主な内訳は土木7割、建築3割である。企業運営の核となる経営理念は、「社会にとって必要な会社となる」ことである。立派な経営戦略を立てても、事業が社会に必要とされなければ必ず淘汰される。テクニックよりも信念の確立を常に意識して経営を行っている。

【きっかけは雇用維持のため】
 公共土木工事の縮小は避けられない課題だ。工事受注規模に合わせて会社の規模を縮小させていくという選択肢もあった。しかし、「社会にとって必要な会社となる」ためには一定規模の人的資源が必要であり、従業員の雇用維持の面からも、何か新しい事業に取り組まなくてはならないと考えるようになった。

 ただ、新しい事業といってもそう簡単に見つかるものではない。多くの業界の勉強会や自治体主催のシンポジウムなどで情報収集を行った。私はこの時、事業選択のために二つの基準を設けた。一つ目は、これまで行ってきた建設業とかかわりがある事業であること。これは、建設業者としてのノウハウを生かせる仕事であれば成功する可能性が高まるということと、既存の従業員の雇用を維持できることを考えたからだ。二つ目は、地域社会に貢献できる事業であること。これは、経営の理念にもある通りだが、地域社会を巻き込んだ事業とすることで、当社単独ではできないようなことも可能にできると考えたからだ。

【地域の問題解決に土木のノウハウ活用】
 宮崎県日向市周辺は日本一の木材生産地で、大量の樹皮が発生している。従来は、林業者が個別に焼却処分を行っていた。しかし、廃掃法改正で既存の小規模な焼却施設での処理が禁止され、産業廃棄物として処理をせざるを得なくなり、大量の樹皮処理コストが発生するようになった。

 樹皮を資源として有効活用する方法として、法面の植生基盤材や、グラウンドや農地の土壌改良材としてリサイクルすることを知った。これならば公共土木工事を中心に営業してきた当社の施工ノウハウも活用でき、地元の基幹産業である林業の樹皮処理コストの軽減による地元経済の活性化につながるのではないかと考え、樹皮リサイクル事業に取り組むことにした。

 林業副産物である樹皮のリサイクル事業に取り組む中で、堆肥化したバーク(樹皮)を特殊加工する技術の提供を受けた。その技術を地域の堆肥製造業者に提供し、堆肥の製造を委託することで事業化することになった。

 販売する製品は、法面の植生基盤材とグラウンド用土壌改良材(クレイグラウンド用、芝生用)で、宮崎の大地が育てた樹木の樹皮だけを使った製品であることをアピールするため、「ひむかバーク」と命名した。

【伸び悩んだ売上げ】
 本格的な事業の立ち上げ後、地域の中小企業が連携して行う事業を支援する経済産業省の新連携事業に認定された。製品開発に対する助成金や販路開拓支援を受けることとなり、事業は順調に進むように思われた。しかしながら、全国的な公共事業の削減による法面緑化工事や学校グラウンド改修工事の減少や、県外業者との価格競争の激化により、売上が伸び悩んだ。同時に地域の樹皮のリサイクル量も増やすことができなかった。また、公共工事を発注する行政に対し、自県の材料から作られた製品を使用するように働き掛けたがあまり効果はなかった。

 そのような状況で、製造を委託していた業者が、「採算の見通しが立たず廃業するつもりだが事業を継承してもらえないか」と打診してきた。一方、当社でも売上の伸びないバーク事業を廃止してはどうかという意見があり、ノウハウのない製造業に本格的に直接乗り出すことにはためらいもあった。しかし、「この事業をやめてしまうと、これまで協力や応援をしてくれた林業者の方々の期待を裏切ってしまうことになる」と思った。最低限の設備投資で本体の経営に重大な影響を及ぼさない範囲で事業を継承することを決意した。

【品質第一の販路開拓】
 事業継承後、抜本的なコストの見直しを行いながら、園芸用土の新たな取引先の開拓を行うことで、ようやく事業を続けられる程度の売上の確保ができるようになった。現在では、一般のホームセンターに出荷しているプランターなどで使用する土はお客様から高い評価を得ている。複数のホームセンターで、同一カテゴリーでの売上ナンバー1になるほどになった。

 当社では、建築廃材の破砕物などが混じらない高品質な樹皮のみを原料とし、原料調達から製造まで1年以上の手間をかけて高品質で安全なバーク堆肥を製造している。一度使っていただいたお客様の多くが何度も当社の製品を購入してくださるのは、品質の高さのおかげだと感じている。また、地域貢献が評価され法面用資材の受注も伸びてきている。

 とはいえ、事業は始まったばかりでまだまだ学ぶべきことばかりである。しかも、肝心の樹皮の処理量は伸び悩んでいるのが現状だ。地域社会への貢献のためにも、既存の販売製品だけでなく、全く新しい用途を開拓しなければ、林業者の負担となっている樹皮の処理量の増加は見込めない。これからが事業の正念場だ。


企業プロフィール
【会社名】株式会社内山建設
【代表者名】代表取締役内山雅仁
【所在地】宮崎県日向市財光寺1360ノ1
【電話】0982(52)6285
【資本金】3900万円
【創業年】1955年4月
【社員数】30人
【URL】http://www.uchiyama-const.com/
【事業内容】土木一式工事、建築一式工事
【複業含む就業者数(パート含む)】40人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会