建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第20回「情報化施工で作業効率アップ」 株式会社砂子組(北海道奈井江町)

いいね ツイート
0

情報化施工で作業効率アップ
―建設本業での人材育成を中心にした挑戦―
株式会社砂子組(北海道奈井江町、代表取締役砂子邦弘)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【手探りのスタート】
 本格的に情報化施工を手掛けたのは、国土交通省北海道開発局の「道央圏連絡道路千歳市祝梅改良工事」(2009年3月受注)からである。取り組みを決断したきっかけは、国土交通省が08年7月に発表した『情報化施工推進戦略』。この中の重点目標に、「直轄の道路土工、舗装工、河川土工の各工事において、大規模な工事では2010年度までに、中・小規模の工事では2012年度までに、情報化施工を標準的な施工管理方法として位置づける」と明記されていたのだ。

 ただ、本格的な取り組みといっても、ノウハウはまったくない。手探りの状態からのスタートとなった。

 情報化施工には、大別すると▽3D―MCや3D―MGなどのマシンコントロール・マシンガイダンス技術▽TS出来型などの出来型管理▽ローラーの軌跡管理(締め固め)などの品質管理▽3次元CADなどによる施工情報の統合管理技術―などがある。

 前記の工事で行ったのは、@ブルドーザーによるマシンコントロール技術(以下3D―MCと略)Aバックホーによるマシンガイダンス技術(以下3D―MGと略)BTS出来型管理―の3技術である。販売代理店、メーカーのサポートを受けスタートした。

【効率化どころか、現場が進まず】
 導入の当初はトラブルの連続だった。3D―MC、3D―MGともにGNSS(全地球航法衛星システム)を使用した技術だが、「衛星を受信しない」「誤差が大きい」「ソフトが初期化しない」など、さまざまな未知の問題に見舞われた。効率化どころか、現場がまったく進まないこともしばしばだった。

 その後、事態を打開するために、当社と代理店、メーカーによる「情報化施工検討会」を立ち上げ、定期的に意見交換会を開いた。現場サイドでしか分からない問題、ソフト・ハードの開発メーカーにしか分からない問題をお互いに共有することで、技術の改善・改良につながったケースが何件もあった。こうした取り組みを経て、苦戦しながらも、情報化施工技術を活用した工事を完了できた。

【3D―MC、3D―MGの作業効率の実績】
 工事規模など現場条件によっても異なるだろうが、当現場の作業効率は大幅にアップしたといえる。従来工法を100%とした時、3D―MCは266%(路床仕上げ)、3D―MGは133%(盛土法面整形)である。

 効率化の要因は、3D―MCの場合、路床仕上げが一度で管理基準を満足できること。3D―MGの場合は、法面整形における水糸の設置作業やそれに伴う重機オペレーターの昇降が無くなったことによる。

 また作業所では、重機オペレーターごとの作業効率を調べたが、3D―MCの仕上がり精度と作業効率は、オペレーターの技能による差がほとんど認められなかった。これは今後の熟練オペレーター不足という問題に効果を発揮しそうである。

 一方で3D―MGは、ガイダンスという性質上、実際の法面整形作業をオペレーターに依存せざるを得ない。技能による作業効率のバラツキは大きかった。

 ただ、どちらの技術も設計データが入力されているので、丁張りの設置待ちや破損による再配置、法長や高さの確認といった計測作業が大幅に軽減され、職員や作業員の工数を大幅に削減する効果はあった。

【現場条件に左右されるTS出来型管理】
 TS出来型管理については、現場条件によって効率が大きく変わる。測定距離・測定角の限界があるためで、平坦で見通しが良い現場以外では必ずしも効率アップにつながるとはいえない。つまり情報化施工では、経験を生かし、現場に合わせた技術の選定が不可欠ということである。

 現在注目しているのは、GNSS機器を使用した出来型管理技術。国土技術政策総合研究所が試験施工を行っており、当現場でも試験施工に協力した。TS出来型管理との明らかな違いは、測定距離が大きいことと、測定に視通の必要がないことだ。GNSSの管理基準が適用されれば、主流になっていくという感触があった。

【新しい技術への取り組み】
 2年目となった10年度は、初年度のノウハウを生かし、新しい技術への取り組みも行った。

 一つ目は、3D―MCの改良版である3D―MC2(スクエア)による路床・路盤仕上げ。効果の高かった仕上げ作業にだけ導入し、厳しい工期内の完成や費用対効果にも効果を発揮した。
二つ目は3Dスキャナの活用。現状を3次元化する技術で、施工能率のアップにつながるものではないが、現状を正確に3次元データ化でき、打ち合わせや、正確な数量算出などに利用できる。また、測量が困難な岩盤や法面などの測定に効果を発揮しそうな技術である。

【受発注者双方の取り組みが必要】
 情報化施工がなかなか普及しない理由の一つに、イニシャルコストの問題がある。会社側からすると、費用対効果が見込めなければ、これらの技術の導入には踏み切れない。

 当社も最初から著しい効果が出せたかというと、そうではなかった。問題点にぶつかり、それを解決していくことの繰り返しが、また次の成果を生み出していった。新しい技術を取得し、活用することは、社員の考える力を高め、人材の育成にもつながっていく。
情報化施工を進化させるには、現場の抱える新しい取り組みへの不安、厳しい工期・低入札による赤字工事の懸念などを軽減させるために、企業がいかにサポートできるかが重要だ。また、書類の簡素化など、発注者が現場の効率化を目に見える形で実践できるかも問われる。こうしたことによって「情報化施工」の普及と、より効率的な社会資本の整備が可能となるだろう。


企業プロフィール
【会社名】株式会社砂子組
【代表者名】代表取締役砂子邦弘
【所在地】北海道空知郡奈井江町字チヤシュナイ987ノ10
【電話】0125(65)2326
【資本金】8800万円
【創業年】1946年9月
【社員数】82人
【URL】www.sunagonet.co.jp
【事業内容】土木、建築、石炭採掘販売
【複業含む就業者数(パート含む)】147人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会