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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第21回「地域の雇用と活性化を担う地域総合産業」 株式会社大場組(山形県最上町)

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地域の雇用と活性化を担う地域総合産業
―環境、農業、観光、福祉などへの進出―
株式会社大場組(山形県最上町、代表取締役大場利秋)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

 山形県東北端にある最上町。約1万人が暮らす町内には、登録建設会社が50社ほどあるが、ほかに主たる産業はない。まさに「公共事業が地場基幹産業」の町である。1990年代に入ると、公共工事の受注額が減少し、民間の建設需要も急減した。地域の雇用と活性化を図るため、新規事業の立ち上げを検討するようになった。

【産廃処理事業に参入】
 最上町が全国に先駆けて設定した美化条例を生かそうと、91年に産業廃棄物処理業の許可を取得し、産廃処理事業に参入した。94年に産業廃棄物処理場、95年に中間処理リサイクルプラントと焼却プラントがそれぞれ完成した。

 循環型社会を実現するため、プラントには廃水を再利用して焼却炉の冷却に使用するクローズドシステム型の処理施設を採用。溶融スラグは建設資材(舗装合材の骨材)として供給しており、製品は県のリサイクル製品にも認定されている。

 さらに、施設で発生する大量の熱源を利用(サーマルリサイクル)したハウス園芸も始めた。大場組の中にアグリ事業部を立ち上げ、胡蝶蘭やマウンテンチェリー、中玉トマトなどを栽培。この排熱循環利用が、その後の農業生産法人もがみグリーンファーム鰍竅A潟~ヨシバイドなどで展開するアグリ事業への本格参入のきっかけとなった。

 2006〜08年の3年間は、東北大学多元物質科学研究所・葛西研究室と産学共同実験を行い、アスベスト溶融の安全処理についてマニュアルを作成した。産業廃棄物処理場の新設に当たって、当時マスコミなどでほかの廃棄物処理場の反対運動がクローズアップされていた時期であり、当社でも反対運動への対応に苦慮した。

【福祉・医療事業も展開】
 02年には地域の高齢化に対応するため福祉事業を開始し、社会福祉法人千宏会、医療法人社団千宏会として、県内外3カ所に施設を展開した。各施設では▽個人のプライバシーを重視した全室個室制▽園芸療法を取り入れたリハビリ(以上「庭の里」)▽医療・福祉サービスとの連携▽居宅介護支援事業所の開設(以上「ローズむらやま」―など、地域に合った介護に取り組んでいる。

【地場産品の販売施設やコンビニ運営で多角化】
 最上町には、温泉・スキー場・釣りで有名な最上小国川や紅葉の名所があるにもかかわらず、受け入れ施設が乏しく、観光客が素通りしてしまう問題もあった。こうした通過客を取り込み、地域の観光発展につなげようと03年には、「川の駅ヤナ茶屋もがみ」をオープンした。地元産の最上早生十割そばや炭火塩焼き鮎などの食事の提供、お土産などの物品販売も行っている。

 また、施設の開設に伴い、町の農産物を内外の多くの人に知って味わってもらうとともに、農業の活性化につなげようと、産直団体「四季の香」を設立させた。さまざまな年齢層の方々65人が会員となり、漬物や農作物の販売を行っている。また、川の駅の対岸3300坪の敷地には「アニマルセラピーパーク」を整備。運営は「NPOあにまるにーず」が行い、犬、うさぎ、モルモット、ワラビー、陸カメ、ミニブタ、ポニー、屋久島ヤギ、羊、鳥など、約250匹の動物たちがいて、子供から大人まで楽しめる空間を提供している。さらに06年には業界初となる古来大和造りの地場産もがみ杉を使用したコンビニLAWSONをオープンさせ、「ヤナ茶屋もがみ」「LAWSON」「アニマルセラピーパーク」との相乗効果を生み出している。

 さらに、07年には地域産業の活性化、食文化の改革を目指し、「轄ナ上あゆセンター」を設立した。鮎や鯉の養殖、加工、販売までを行い、鮎や鯉を使った特産品や食事メニューの開発に取り組み、ヤナ茶屋もがみや町内の旅館などに提供している。

【本格的に農業参入】
 08年には、地域の農業従事者の高齢化による離農、耕作放棄地の増加などに伴う、地域農業の衰退に歯止めを掛けるため、もともとあった大場組のアグリ事業部を「農業生産法人もがみグリーンファーム梶vとして本格的に農業参入した。新たな高付加価値農業の構築を目指し、コメ、大豆、そばなどの転作作物の生産請負や販売、ワーコム農法を取り入れた農作物の生産、地域ブランドの確立を目指した取り組みを進めている。また耕作放棄地を活用し、山菜王国最上を目指した山菜の栽培も行っている。

 農作物は福祉施設や旅館の食材として使用しているほか、地域の企業とも生産・流通・販売で連携し、農商工の振興を図っている。また、行政からも多くの情報を取り入れ、自治体や農協からの作業を受託するなど、地域全体が元気になるような農業を目指している。

【雇用維持、地域の活性化で貢献】
 大場組の社員の8割以上は、家業で農業を経験しており、農業への参入に抵抗はなかった。一方で産廃業や福祉、観光業などについてはゼロからのスタートであり、何度も勉強会を重ねながら試行錯誤を続けた。当社は上記のほかにも園芸培土事業、砕石業なども行っている。

 当社の建設部門は、売上の落ち込みで、最盛期に170人だった社員が今では80人まで減少した。しかし、複業化の展開によって、グループ全体の社員は、逆に380人ほどに増えた。地域の雇用維持、活性化は今後も続く課題となるだろうが、当社の取り組みは少なからず地元最上町に貢献できていると考えている。


企業プロフィール
【会社名】株式会社大場組
【代表者名】代表取締役大場利秋
【所在地】山形県最上郡最上町大字志茂277ノ6
【電話】0233(44)2424
【資本金】5000万円
【創業年】1971年11月
【社員数】87人
【URL】http://www.o-bagumi.co.jp/
【事業内容】建築工事、土木工事、土木・建築設計、監理、不動産取引業、損害保険代理業、学習塾、人材派遣事業、川の駅ヤナ茶屋もがみ、ローソン川の駅もがみ店、楽天ショップ「みちのく千宏家」
【関連会社】潟Iオバ▽泣_イケン▽轄ナ上クリーンセンター▽轄ナ上あゆセンター▽潟~ヨシバイド▽大横川砕石梶、農業生産法人もがみグリーンファーム梶、医療法人社団千宏会「ローズむらやま」▽社会福祉法人千宏会「庭の里」「健康福祉プラザもがみ」
【複業含む就業者数(パート含む)】380人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会

米田雅子+地方建設記者の会