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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第24回「複数の事業を展開し、企業体質を変革」 杉山建設株式会社(岐阜県本巣市)

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複数の事業を展開し、企業体質を変革
―「技術」「環境」「地域」を主軸として―
杉山建設株式会社(岐阜県本巣市、代表取締役杉山文康)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

 売上高の8割以上が官庁土木工事という典型的な地域建設業である。1939年の創業以来、幅広い分野の土木工事を手掛けてきた。また、アスファルト合材やリサイクルのプラントも設置し、地域の強い信頼を得てきたとの自負がある。一方で、公共事業の発注量の減少に伴い、土木工事の売上高はピーク時の50%を切り、生コン事業の撤退などもあって、人員体制は現在60人弱とピーク時より40%以上の減少となった。

 官庁土木工事主体で培われた企業体質を変えるために、民間比率の向上に向けた営業体制の転換やコスト意識の徹底などを掲げたが、発注量の減少は改革のスピードをはるかに超えるものだった。

【新たな事業への挑戦】
 こうした中で、新たな事業への進出を目指す活動を始めた。基本方針として、「得意なフィールドに関連すること」「収益部門を複数つくること」「現有戦力中心とすること」の三つを掲げた。
企業の多角化戦略の分析結果などからも分かる通り、全くの異分野へ進出する場合の成功率はかなり低く、「技術」「市場」などで何らかのかかわりがある分野に進出することがベターである。当社にとっては、「土木工事」と「地域」がマーケットであり、このフィールドに関連した市場に進出することを基本とした。

 収益部門を複数つくるという二つ目の方針は、経済成長が鈍化し、地方での新たな需要の創出が難しい中で、官庁土木工事に匹敵する収益部門を生み出すことが、投下資本のリスクを含め非現実的だからだ。このため当社の企業規模に合った新たな収益部門を複数つくることを目標に定めた。

 新事業を担当する人員については、現有戦力の能力向上や生産性の向上によって生み出していくことを目指した。現有社員の配置転換や担当の複業化、さらに閑散期の仕事の拡大などを基本としていくが、成功のキーとなる能力を有する人材がいない場合には、外部から導入することとする。

【技術、環境、地域で新事業展開】
 具体的な取り組みでは、「技術分野」「環境分野」「地域分野」での取り組みを進めた。ここでは、それぞれの分野での商品や現状などを紹介する。

■技術分野
 土木工事の関連分野で、今後増大するコンクリートの維持・保全分野に着目した。外部から研究者を招き、研究開発部門を立ち上げて独自の技術開発を行っている。また、大手企業からの技術導入も行い、幅広いコンクリートの補修技術を内部化しながら受注に結び付けている。

・コンクリート用高性能撥水剤「アクアテクト」の開発・販売・施工
 コンクリート構造物のライフ・サイクルコスト低減を目指し、表面保護工としての高性能撥水剤「アクアテクト」を開発した。国交省のNETISにも登録され、関連会社の日本撥水鰍ナ製造・販売し、ほかの導入工法とともに当社で施工を行っている。

・目地補修材、落書き除去材の開発・販売・施工
 目地補修材「ハイパーシール」の開発を行い、農業用水路の経年劣化対策という地域のニッチな需要を取り込んでいる。また、落書き除去材「リムーバージェル」なども独自に開発した。

■環境分野
 当社の得意分野である河川工事の分野で、ビオトープや緑化の研究を行い環境保全に対する知識を高めながら、新たな環境護岸システムを提案してきた。

・環境護岸ブロック「グラステクト」などの開発
 岐阜県が進める「自然共生型川づくり研究」の公募に参画。護岸強化に加え、修景と生態系に配慮した数種類の環境護岸ブロックを開発し、特許を取得するとともに、さまざまな賞も受賞した。2次製品メーカーに製造・販売の委託を行うが、現在では発注者の環境ブームは去り、コスト縮減の中で需要は低迷している。

■地域分野
 当社が進出できる地域分野を検討し、いくつかの分野に進出している。なお、福祉分野については、当社でのオペレーションは困難と考え、遊休資産活用の観点から医療機関に対して建物・土地のリースを行っている。

・林業(林建協働)への取り組み
 すでに作業路の施工について実績を有しているが、業界の林建協働プログラムの中で、地域建設業側のリーダー的役割を担いながら、本格的な進出を準備している段階である。施業地の集約から伐採・搬出までできるよう、社内の人材育成を図る一方で、自治体を巻き込みながら森林組合、事業会社との連携の方途を探っている。

・来店型保険ショップ「保険サロン」の運営
 地域密着で顧客の信頼を得ることこそが必要不可欠という点で、本業に通じるところがある。従来の生命保険の押しつけ型販売方法に代わり、複数の生保会社の商品をコンサルティング型で販売している。新たに採用した4人の女性スタッフにより、愛知県内で2店舗を運営している。


【複業化への挑戦で企業風土も変化】
 新たな事業に取り組み始めて10年以上が経過したが、まだ全体の利益に貢献するまでには至っていない。ほとんど成果の出なかった分野もある。
 
 失敗した分野については、官の政策に安易に乗ってしまうなど、事業の選定を行う時点で十分な検証をしなかったことが最大の過失であった。

 ただ、さまざまな取り組みを通じ、社員の仕事の幅を拡げることや年間を通じた生産性の向上につながっていることは確かである。複業化の挑戦を通じて企業風土も変化してきたと思う。本業への相乗効果も期待でき、今後も挑戦を続けたい。

企業プロフィール
【会社名】杉山建設株式会社
【代表者名】代表取締役杉山文康
【所在地】岐阜県本巣市海老430
【電話】058(323)1331
【資本金】2000万円
【創業年】1934年12月
【社員数】50人
【URL】http://www.sugix.com
【事業内容】土木工事、舗装工事、アスファルト合材製造販売、コンクリート構造物の保全及び維持・補修工法の企画・販売・施工、環境関連製品、工法の企画・販売・施工、来店型保険ショップ(生命保険・損害保険代理店)運営、山林の施業、不動産賃貸
【関連会社】丸文産業梶、山京興産梶、日本撥水
【複業含む就業者数(パート含む)】60人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会

米田雅子+地方建設記者の会