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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第25回「環境の目線で現場を変える」 株式会社加藤建設(愛知県蟹江町)

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環境の目線で現場を変える
―「エコミーティング」という取り組み―
株式会社加藤建設(愛知県蟹江町、代表取締役社長加藤徹)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【社会から求められる仕事】
 企業が健全であり続けるには、そこで働く人たちが幸せであるということが重要なポイントである。「働くこと」の幸せにもいろいろなとらえ方があるが、何といっても自身が学んできた知識や、汗を流した頑張りが世の中の人の役立っていると実感できることが、なによりなのではないだろうか。

 私たちの従事する建設業に当てはめてみると、人や物の交流に欠かせない道路の整備、自然災害から人々の暮らしを守る河川などの整備、人々の憩いの場である公園の整備等々すべての仕事がそのままダイレクトに世の中の人の役に立っていて、感謝されまくっているはず…だったのだが…。なぜだか世の論調は「無駄な公共工事」「自然破壊」など、幸せを実感させてもらえるどころか後ろめたい気持ちにさせられることばかり。ついつい愚痴も言いたくなるところだがここは発想の転換。実は世の中の人は我々に期待してくれなくなったのではなく、「さらに良いものが欲しい」と生活レベルの向上とともに、土木技術者への要望が高くなったことの表れなのではと考えることにした。

【生活と自然の共生を】
 そうとなったらさっそく実践。まずは世間の反響の大きい環境分野から。

 世の中では建設工事=環境破壊であると決めつけているようだが、もちろんそうは思わない。逆に今の便利な生活と美しい自然との共生を提案し、実際に形作っていくことは建設業にしかできないことだと思う。自然の美しさと怖さを知る者として、大地を大きく動かすことのできる技術ある者として、そして失われつつある昔ながらの風景を知る地元の者として、考え方を少し柔軟にするだけで、建設業が自然環境再生にとって無くてはならない存在になるはず。その実現のための第一歩として「エコミーティング」という活動を始めてみた。

 方法はいたって簡単。現在進行中またはこれから着工の工事現場に出向き、自分自身が近くで生活しているという目線で現場を歩き、少しでも自然環境にやさしいと思われる提案があったらどんどん出していくというものだ。

【エコミーティングのスタート】
 2009年7月からスタートしたエコミーティング。日常業務では工事に携わっていない総務や営業などのメンバーも加わったチームが工事現場を訪問し、現場担当者とともに夢あふれるものづくりへの話し合いをすることから始まった。

 供用開始前の道路にそれまでの期間ソーラーパネルを設置し、「建設現場からクリーンエネルギーを」というメガソーラー提案や、コンクリート張りの設計になっている堤防裏を自然の状態を生かしたままにできるところはそっとしておく提案など、実現可能な提案からちょっと難しい提案まで自由に話し合いながら、週1回くらいのペースで、まずは社内に浸透させるまでがファーストステップ。

【業界全体での取り組みを目指す】
 社内の活動である程度手ごたえをつかめたので、次なる展開は大きく広めること。営利企業として他社との差別化をすべきではという意見も社内にあり、少し考えどころではあったが、「エコミーティング」の狙いは建設業界全体を本来の姿である地域の人から心から必要とされる存在に戻すこと。公共事業への信頼が多くの人々に再び浸透してくれば、回りまわって会社も潤うはず。善は急げ、中部建設青年会議をはじめとするさまざまな業界団体を通じての「エコミーティング」の啓蒙活動が今始まったところである。

【提案が実現し、まず第一歩】
 エコミーティングによる提案は、工事啓蒙のためのかわら版作成のような身近な提案から直接工事内容の変更にかかわるような大きなことまでさまざま出されたが、なかなか工事内容の変更にかかわることの実現は難しいもの。ただ本来の目的を考えると自然に配慮するための設計変更は大いに可能であるという実績はぜひともクリアしておきたいところ。

 そんな課題が、木曽川にかかる橋の橋脚耐震補強工事においてやっと実現した。工事としては単純に橋脚を増厚するだけのものであるが、工事個所の川岸に茂るヨシ原が、古い水制の玉石により分断されていた。そこで工事の最終段階に分断されている部分の玉石を取り除き、ヨシ原をつなげ生物の生育環境を整備しようという提案である。橋脚補強工事に伴う重機があるからこそ可能な試みであった。ヨシ原の生育はこれから見守らなくてはならないが、我々にできることの第一歩を踏み出せた。

【プロの技術者として】
 これまで「エコミーティング」参加者は建設会社と発注者が主であるが、次なるステップとして、今後はこれからの社会を担っていく学生や、現場のご近所の方などにも参加してもらうことが大切だと思っている。自分たちの住むまちは自分たちのアイデアも生かして形づくっていくことができる。それこそ建設産業が地域の皆さんに贈ることができる「まちづくり」という最高のプレゼントなのではないのだろうか。

 その時には、参加してくれた地域の人たちから「さすがにプロの技術者」と思われることも信頼づくりには重要なポイント。いろいろ勉強することがあるが、まずは現場に携わる者が皆、自然についての確かな知識を身につけることが必要。

 「貴重種と外来種の見分けなんて楽々だよ」。そんな技術者集団を目指し、「ビオトープ管理士」の資格取得に向けた社内プロジェクトが動き始めた。


企業プロフィール
【会社名】株式会社加藤建設
【代表者名】代表取締役社長加藤徹
【所在地】愛知県海部郡蟹江町下市場19ノ1
【電話】0567(95)2181
【資本金】1億8000万円
【創業年】1912年
【社員数】236人
【URL】http://www.kato-kensetu.co.jp/
【事業内容】土木一式工事
【複業含む就業者数(パート含む)】300人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会

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