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橋―命を架ける―東日本大震災の教訓
 第4回 しなやかに学び、次に生かす

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 道路インフラの中でも、ボトルネックになりがちなのが「橋梁」だ。橋梁が無事であっても前後の道路に異常があれば橋梁はその役割を果たせない。これと同じく、いくら前後の道路が健全であっても、橋梁が通れなければ命の道はつながらない。通れなくなって、初めて橋梁の重要さに気が付いても後の祭りだ。平時にこそ、いまある橋梁一つひとつを点検し、耐震補強や保全工事を行い、地震に耐えられ、かつ長持ちする橋梁に改善していく必要がある。
 しかし、その橋梁技術の継承が危機に陥りつつあることは、余り知られていないのではないだろうか。他の建設業職種と同様、橋梁技術者の高齢化が深刻だ。いわゆる団塊の世代の退職に伴い、若手技術者への技術や技能の継承が思うようにいかない状態は悪化の一途をたどっている。橋建協の会員各社はほとんど同様の状況を呈している。特に昨今は厳しい受注環境のしわ寄せが若手技術者に及ぶ傾向があり、事態はより深刻化する一方だ。
 世界に冠たる橋梁技術の継承を脅かしている原因がもう一つある。それは発注者による画一的な橋梁形式の採用である。コンクリート橋との厳しい価格競争とも相まって、発注者が建設コストの安い橋梁形式を多用する傾向が強くなってきている。鈑桁や箱桁以外の橋梁形式の採用事例が少なくなり、設計に携わる技術者だけでなく、工場(製作)でも、現場でも、多くの技術者がトラスやアーチ、あるいは斜張橋や吊橋といった、多種多様な橋梁形式の設計や施工・監理などの経験を積む機会を失ってしまっている。
 例えば、トラスには独特の橋梁工学的特性がある。被災したトラス橋の修復や、既存トラス橋の耐震補強には、トラスの設計上の特性や工場製作、あるいは現場架設における注意事項などを理解している橋梁技術者が不可欠だ。
 震災復興の象徴的な高規格道路である三陸自動車道には、山岳橋梁が多い。このようなケースでは▽部材重量が軽い▽現地への搬入が容易▽張り出し架設工法を用いることで、ベントなどの使用機材を少なくできる―などの利点を有するトラス型式の採用を選択肢としてもよいのではないだろうか。橋梁形式の選定には、VFM(バリューフォーマネー)もさることながら、ぜひ、技術者育成の観点も加味してもらいたいものだ。
 岩手県大船渡市には、大津波に勝った鋼橋がある。大船渡港に流れ込む盛川、その最も河口に架かる川口橋がそれだ。あの日、「3径間連続2主鈑桁+合成床版」の上を台船が乗り越えた。それでもこの橋は流出も落橋もしなかった。2主鈑桁独特の「しなやかな」構造が津波を受け流した可能性がある。
 東日本大震災は、未曾有(みぞう)の大災害と形容されるほど甚大な被害を受けた。だが、阪神・淡路大震災をはじめ過去の災害から学び取った教訓が少なからぬ数の橋梁を守り、結果、多くの尊い命を救った。
 いまを生きる私たちには、東日本大震災から真摯(しんし)に学び取る「しなやかな思考」と、そうして得た教訓を「次なる大災害」の防災・減災に生かそうとする「鋼(はがね)のような意志」が求められている。

執筆者プロフィール

日本橋梁建設協会橋梁保全委員会幹事長 河西龍彦

河西龍彦
日本橋梁建設協会橋梁保全委員会幹事長