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土木歴史散歩
第3回 加藤清正の二重石垣

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 「大切なことは目に見えないんだよ」。
 サン・テグジュペリの『星の王子さま』に出てくる有名な言葉だが、ここでは土木の話である。
 あって当たり前、ないとたちどころに窮する土木の役割や価値はなかなか一般に見えにくい。それでも私たちが朝起きて、普通の暮らしが当たり前に機能するように騒音などにも気を配りながら、調べる、直す、防ぐといった仕事は24時間いろいろな制約のなかで休みなく続けられている。それは、明日のことだけでなく、将来を見据えた土木の使命によるものなのだが、住民の感謝や信頼に直結することは稀だ。
 例えば戦国時代、住民のため百年先を見据えて土木工事を行った武将がいた。秀吉と同じ尾張の中村に生まれ、関ケ原の合戦後、肥後(熊本)の領主となった加藤清正である。
 清正が佐々成政(さっさなりまさ)の後を受けて熊本城に入った時、乱世で荒れた領地では暴れ川が住民たちを翻弄していた。特に、水源を阿蘇の外輪山に発する白川は、流れ込む火山灰土(ヨナ)によって洪水時の泥害に悩まされていた。
 もともと、秀吉の大阪築城で石奉行だった清正である。築城で培った技術を治水工事にも活用、石材を多用した堤防工事を数多く行った。熊本城の二重石垣技術は、石積堤防にも施され、二百年後の寛政大洪水の時、壊れた堤防の内側からもう一つの護岸が発見されたという逸話も残る。
 こうした土木技術者のき然たる誠意と技術は、世紀を超えて「普通の暮らし」を守ってきたことを示す証左と言えるだろう。


※付図の出典=『土木の絵本』第1巻(一財・全国建設研修センター)より

執筆者プロフィール

土木学会社会コミュニケーション委員会幹事長、全国建設研修センター企画推進部長 緒方英樹

緒方英樹
土木学会社会コミュニケーション委員会幹事長、全国建設研修センター企画推進部長
博士(学術)。現在、NHK文化センター青山教室で講座「歴史に学ぶ土木力〜民衆を救った恩人たち〜」の講師を担当中。土木の絵本シリーズやDVD「私たちの暮らしと土木」、アニメ映画「パッテンライ」などを企画してきた。著書は「身近に楽しむ・学ぶ・語り継ぐ ふるさとの歴史資産」「人物で知る日本の国土史」など。宮崎県出身。